三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
お店は、同じ商業施設に入っている洋食屋さんにした。
通路に面した明るい店内には、買い物帰りらしい人たちが何組もいる。二人席に案内されると、蓮くんは向かいに座った。
近い。
いや、普通の二人席だ。顔がよく見えるだけ。私は渡されたメニューを開いた。
「お腹すいてる?」
「うん。結構」
「よかった。好きなの頼んでね」
メニューに目を落とした蓮くんは、まつ毛まで長かった。ページの端に添えられた指も、すらりと長い。
そこまで眺めていたことに気づいて、私は自分のメニューへ目を戻した。
ご飯に誘ったのだ。あまり、じろじろ見るものではない。
「ハンバーグにしようかな」
言うと、彼が顔を上げた。
「俺も。それ、ソース何にする?」
「デミグラス。蓮くんは?」
「和風」
二種類の写真を見比べて、少し迷う。大根おろしも美味しそうだ。
「迷う?」
「ちょっと」
「一口あげるよ」
向かいの顔を見て、私は頷いた。
「ほんと? じゃあ、私のもどうぞ」
運ばれてきたハンバーグは、写真より少し大きく見えた。蓮くんがナイフを入れると、切り口から肉汁がにじむ。一口食べて、小さく頷いた。
「おいしい?」
「うん」
蓮くんは、もう一切れ切り分けた。大根おろしをのせ、フォークに刺したままこちらへ差し出してくる。
「はい」
受け取ろうとして、手が止まった。
これは、口を開けるほうだ。
顔を上げると、蓮くんが少し身を乗り出していた。私が食べるのを、ごく自然な顔で待っている。
あの顔に見られながら、口を開けるのか。
「あ、ええと……」
小皿に取ってもらえばいい。そう思いつくまでに、妙な間が空いてしまった。
「お皿に、もらってもいい?」
彼は差し出された小皿より先に、私の顔を見た。
「喜ぶと思ったのに」
口元が少し上がる。
「嬉しいよ。ただ、その……ちょっと照れるから」
言ってしまってから、頬が熱くなった。食事に誘っておいて、何を照れているんだろう。
「照れるんだ」
蓮くんが楽しそうに繰り返すので、私は小皿を持ち直した。
「……初対面でしょう」
「そっか」
彼は素直にハンバーグを置いてくれた。
お礼を言い、私も自分の分を切り分ける。まだこちらを見ている気がしたけれど、今は確かめないでおいた。
「蓮くんのも、今あげるからね」
「うん」
その声が笑っていたので、私はもう少しだけ、自分のお皿に集中することにした。
交換して食べてみると、和風のほうはさっぱりしていた。
「こっちもおいしいね」
「そっちも。次、そっちにしようかな」
蓮くんはそう言って、ご飯を口に運ぶ。食べ方が綺麗だった。それでいて、よく食べる。見ていて気持ちがいいなと思っていると、目が合った。
「何?」
「ううん。おいしそうに食べるなと思って」
「おいしいからね」
口元が少し上がる。私も笑って、自分のハンバーグを切った。
通路に面した明るい店内には、買い物帰りらしい人たちが何組もいる。二人席に案内されると、蓮くんは向かいに座った。
近い。
いや、普通の二人席だ。顔がよく見えるだけ。私は渡されたメニューを開いた。
「お腹すいてる?」
「うん。結構」
「よかった。好きなの頼んでね」
メニューに目を落とした蓮くんは、まつ毛まで長かった。ページの端に添えられた指も、すらりと長い。
そこまで眺めていたことに気づいて、私は自分のメニューへ目を戻した。
ご飯に誘ったのだ。あまり、じろじろ見るものではない。
「ハンバーグにしようかな」
言うと、彼が顔を上げた。
「俺も。それ、ソース何にする?」
「デミグラス。蓮くんは?」
「和風」
二種類の写真を見比べて、少し迷う。大根おろしも美味しそうだ。
「迷う?」
「ちょっと」
「一口あげるよ」
向かいの顔を見て、私は頷いた。
「ほんと? じゃあ、私のもどうぞ」
運ばれてきたハンバーグは、写真より少し大きく見えた。蓮くんがナイフを入れると、切り口から肉汁がにじむ。一口食べて、小さく頷いた。
「おいしい?」
「うん」
蓮くんは、もう一切れ切り分けた。大根おろしをのせ、フォークに刺したままこちらへ差し出してくる。
「はい」
受け取ろうとして、手が止まった。
これは、口を開けるほうだ。
顔を上げると、蓮くんが少し身を乗り出していた。私が食べるのを、ごく自然な顔で待っている。
あの顔に見られながら、口を開けるのか。
「あ、ええと……」
小皿に取ってもらえばいい。そう思いつくまでに、妙な間が空いてしまった。
「お皿に、もらってもいい?」
彼は差し出された小皿より先に、私の顔を見た。
「喜ぶと思ったのに」
口元が少し上がる。
「嬉しいよ。ただ、その……ちょっと照れるから」
言ってしまってから、頬が熱くなった。食事に誘っておいて、何を照れているんだろう。
「照れるんだ」
蓮くんが楽しそうに繰り返すので、私は小皿を持ち直した。
「……初対面でしょう」
「そっか」
彼は素直にハンバーグを置いてくれた。
お礼を言い、私も自分の分を切り分ける。まだこちらを見ている気がしたけれど、今は確かめないでおいた。
「蓮くんのも、今あげるからね」
「うん」
その声が笑っていたので、私はもう少しだけ、自分のお皿に集中することにした。
交換して食べてみると、和風のほうはさっぱりしていた。
「こっちもおいしいね」
「そっちも。次、そっちにしようかな」
蓮くんはそう言って、ご飯を口に運ぶ。食べ方が綺麗だった。それでいて、よく食べる。見ていて気持ちがいいなと思っていると、目が合った。
「何?」
「ううん。おいしそうに食べるなと思って」
「おいしいからね」
口元が少し上がる。私も笑って、自分のハンバーグを切った。