三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
最初に来たのは、タンだった。トングを取ろうとすると、向かいから手が伸びる。

「俺、焼くよ」
「ありがとう。じゃあ、お願い」

彼が一枚ずつ網にのせていく。じゅっと音がして、香ばしい匂いが上がった。

「映画さ」

網を見たまま、蓮くんが言った。

「あの人が出てきたとき、笑わなかった?」
「笑った。怪しいって聞いてたから、余計に」
「俺も、おねーさん絶対ここで笑うと思った」

顔を上げた彼と、目が合った。私が見ているところを想像したのか。

「笑ったよ。隣の人に気づかれないように我慢したけど」
「あの登場の仕方、ずるいよね」
「扉が開くところから、もう怪しかった」

話しながら、彼が肉を返す。指が長い。トングを持つ手にも、何となく目が行く。前回も思ったけれど、綺麗な手だな。

「おねーさん、皿」
「あ、はい」

差し出すと、焼けたタンがのった。

「レモン、使う?」
「うん。ありがとう」

今度は自分の分を取って、彼も一口食べる。少し顎が上がった。それから、ゆっくり頷く。

「おいしいね」
「うん。これ、もう一皿頼もう」
「まだハラミも来てないよ」

彼はご飯を一口食べてから答えた。

「食べるから大丈夫」

心強い。私は注文用の端末を手に取った。

映画の結末について話しているうちに、カルビとハラミも来た。

「最後、あれでよかったのかな」

私が言うと、蓮くんは網に肉を並べながら首を傾けた。

「俺は好きだったけど」
「そっか。私は、あの二人にもう一回話してほしかった」
「ああ。でも、話したら帰れなくない?」

言われて、最後の場面を思い返す。

「……確かに。帰れないね」
「だから、あそこで終わってよかったんじゃない」

彼が顔を上げる。そういう見方もあるのか。

「もう一回見たくなった」
「俺も。最初のほう、見直したい」

蓮くんはハラミを一切れ取って、私のほうへトングを伸ばした。小皿に置く拍子に袖口がずれて、手首の内側が覗く。骨ばった手の甲とは違う、薄い皮膚の下にうっすら血管の透けるところまで、つい目で追ってしまった。

彼は空いた手で袖を押し上げると、また網へ視線を戻した。

顔が格好いいのは、本人もよく知っている。
でも、今の手首までは、たぶん計算していない。

……そういうところまでいいのは、ずるい。

「蓮くんも食べてね。焼くの、代わろうか」
「食べてるよ」

言いながら、自分の皿の肉を口に運ぶ。ご飯も、もう半分くらいになっていた。本当だ。焼くのと食べるのが、うまく両立している。

「おねーさん、ご飯それで足りる?」
「うん。お肉をいっぱい食べるから」
「俺もいっぱい食べるけど」

彼の大盛りご飯を見て、私は笑った。

「知ってる」
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