三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
本編が始まれば、ちゃんと夢中になった。

主人公が迷うところでは私まで息を詰めたし、そこでそんな冗談を言うのかと笑った場面では、隣からも小さく声が漏れた。

明るくなるのを待って顔を向けると、蓮くんもこちらを見た。

「どうだった?」
「話したいこと、いっぱいある」
「俺も」

同じような顔をしていて、笑ってしまった。

上映後のロビーは混み合っていた。彼の後ろを歩いているうち、横から来た人に道を譲って、少し離れる。
振り返った蓮くんが、手を差し出した。

「真帆さん、こっち」

つい、その手を取っていた。
指が私の手を包む。人の流れを抜け、壁際まで来ると、するりと離れた。

「最後のさ。あそこで戻ると思わなかった?」

もう映画の話を始めている。

「……思った。絶対戻ると思った」
「だよね」

私は空いた手でバッグを持ち直した。ロビーの時計は、まだ五時前だった。

「何か食べていく?」
「いいの?」
「うん。映画の話もしたいし」

このまま別れるには、話し足りなかった。

近くの店でピザを頼み、気になった場面を話した。好きなところが違うので、そのたびに映画の中へ戻ることになる。

お皿が空になってからも話していたら、蓮くんが壁の時計を見た。

「時間、大丈夫?」
「うん。蓮くんは?」
「俺も大丈夫」

彼はそのまま店員さんを呼び、飲み物のおかわりを頼んだ。

「真帆さんも?」
「うん。同じので」

もう少し、ここにいられる。
メニューを戻す彼を見ながら、私は椅子に座り直した。
< 59 / 90 >

この作品をシェア

pagetop