三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
カフェの奥で、蓮くんが手を上げた。
背の高い椅子が並ぶ、壁際の席だった。近づくにつれて、彼の顔がよく見える。

会いたかったな、と思った。

「待たせちゃった?」
「ううん。今来た」

向かいに座ると、いつものようにこちらを見る。その目に少し困って、メニューを開いた。
コーヒーを頼んでからも、何を話せばいいのかわからなかった。映画の話なら、いくらでもできるのに。

「来てくれて、ありがとう」
「私も、ごめんね。映画、待ってもらっちゃって」
「それはいいよ」

そこで言葉が途切れた。

蓮くんは急かさずに待っていた。私はテーブルの端へ目を落とし、それから彼を見た。

「……この前、一緒にいた人。嬉しそうだったね」
「うん。喜んでもらえるように工夫したからね」
「工夫?」

彼は少し考えた。

「どう言ったら嬉しいかとか、何をしたら楽しめるかとか。仕事として会ってるから」

あの人が髪を耳へかけた仕草を思い出した。蓮くんは、そんな顔をしてもらえるように接していたのだ。

「私も、あんな顔してたのかなって思ったの」

彼の口元から、笑みが消えた。

「蓮くんと話すの、楽しいから。ああいうふうに笑ってもらったら、嬉しいよね」

コーヒーが運ばれてきて、いったん黙った。店員さんが離れてからも、カップには手をつけられなかった。

「最初は、ご飯だけで楽しかったんだよ。でも、蓮くんから連絡が来るのを待つようになってた」

言ってしまうと、顔を見ているのが難しくなった。

「映画も、私に会いたくて誘ってくれたのかなって思ってたから。それも、喜ばせてくれてたのかなって……」

声が小さくなる。

「会いたかったから、誘ったよ」

顔を上げると、蓮くんは私を見ていた。

「映画を見て、真帆さんと話したくなった。次は隣で見たかった」
「うん。でも、それは」
「好きだから」

続けようとした言葉が止まった。
蓮くんは、私から目を逸らさなかった。

「真帆さんが好きなんだよ」

私はコーヒーに手を伸ばした。飲もうとして、まだ熱いことに気づく。戻したカップがソーサーに当たり、小さく鳴った。
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