三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
「あのね。私たち、十二歳違うでしょう」
「うん」
「蓮くんはこれから就職して、会う人も変わると思うの」

彼は黙って聞いていた。

「同じくらいの歳の子のほうが、一緒にいて楽しいって思うかもしれない」
「……真帆さんは、俺といて楽しくない?」
「楽しいよ」

思わず答えると、彼の眉が少し下がった。

「じゃあ、真帆さんは?」

先の話ならできた。自分がどう思っているかを言うほうが、ずっと怖かった。

「好きだと思う」

蓮くんの目が、わずかに開く。
その顔を見たら、曖昧にしておけなくなった。

「思う、じゃなくて……好き」

彼の口元が緩んだ。隠す気もなさそうに嬉しそうで、見ている私の頬まで熱くなる。

「だから、怖いんだよ」

膝の上で両手を重ねた。

「ほかの女の人と会ってたら、嫌だと思うし。今までみたいに、楽しかったねって帰れなくなる」

蓮くんは、今度は笑わなかった。

「結婚も、今すぐしたいわけじゃないけど、何年かしたら考えるかもしれない。そのとき、蓮くんにはまだ早いかもしれないでしょう」

付き合ってもいないのに、こんな先のことまで。

「……重くて、ごめんね」

彼を見ると、また口元が緩んでいた。

「今、笑うところ?」
「ごめん。嬉しくて」
「私、結構、真剣に話してるんだけど」

蓮くんは頷いた。

「そんなに俺のこと考えてたんだ、と思って」

今度は耳まで熱くなった。

「……言わなきゃよかった」
「それは困る」

すぐに返され、何も言えなくなる。

「重くていいよ。ちゃんと聞くから」

その声は、笑っていなかった。

「真帆さんだって、俺じゃないほうがいいって思うかもしれないじゃん」

少しして、蓮くんが言った。

「アプリで、同じくらいの歳の、仕事もちゃんとしてる人に会って。俺といるより安心するかもしれないし」

簡単には否定できなかった。未来はわからないと言ったのは、私だ。

「俺、面白くなかったよ。アプリ始めたって知ったとき」
「……そうだったの?」
「俺にはあんなに格好いいって言ったじゃん、って」

私は彼を見た。

「それは、本当にそう思ってるから」
「うん。知ってる」

いつもの返事に、少し笑ってしまった。

「でも、顔が好きなのと、付き合いたいのは違うんだろうなって思った。だから、今、嬉しい」

彼はテーブルに置いた自分の手を見てから、私へ目を戻した。

「先のことは、俺も全部はわからないけど。怖くなったら、俺に言って」

私は頷いた。

「勝手に俺のためとか考えて、いなくならないで」

返事をしようとしたとき、彼が少し困ったように笑った。

「俺のこと、捨てないでよ」

その顔を見たら、抱きしめたくなった。テーブルが、邪魔だった。
私は彼の手に触れ、そっと握った。蓮くんは一度手元を見てから、私を見た。

「……捨てないよ」

握り返してきた手が温かくて、ますます、テーブルが邪魔になった。

「私も、ちゃんと話す」
「うん。俺も」

彼の指が、私の手を包み直した。

「ほかの人と、ああいう会い方はもうやめる。真帆さんと付き合いたいから」

私はつないだ手を見て、それから彼の顔を見た。

「……私も、蓮くんと付き合いたい」

蓮くんが笑った。

今度は目を逸らさずに、その顔を見ていた。
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