三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
駅とは反対の道へ入り、人通りが減った頃、蓮くんが明日の一限の話をした。そのあとには、会社の説明会もあるらしい。

「もう、どこを受けるか決めてるの?」
「いくつか気になってる。まだ調べてるところだけど」
「そっか。蓮くんって、何学部だっけ?」

何度も会っているのに、聞いた覚えがなかった。

「経済」
「あ、そうなんだ」
「真帆さんの仕事も、ちゃんと聞いたことないよね」

私は会社で企画に関わる仕事をしていると話した。日によって頼まれることが違うし、外で仕事の説明をする機会もあまりないので、何から話せばいいのか迷う。

「どうして、今の仕事を選んだの?」

聞かれて、就職活動をしていた頃を思い出した。

「自分が関わったものを、お店で見られるのが楽しそうだと思ったのかな」
「実際、働いてみてどう?」
「楽しいこともあるよ。思ってたのと違うことも、いっぱいあるけど」

ようやく出来上がったものを見に行ったら、棚の下段で全然見えなかったことがある。そんな話をすると、蓮くんは笑いかけて、私の顔を見た。

「笑っていいやつ?」
「いいよ。今はね」
「そのときは?」
「しばらく、その棚の前にいた」

彼が笑ったので、私も笑った。
仕事の話をするうちに、つないだ手にも少し慣れてきた。蓮くんが聞いてくれるので、つい失敗したことまで話してしまう。

「就活の参考になる?」
「うん。説明会だと、あんまり聞けないし」

それなら、少しは役に立てたらしい。

私も彼の授業や友達の話を聞いた。食事のときにも大学の話はしていたけれど、名前だけ知っていた友達が、どんな人なのか少しわかった。

話しながら歩いていたら、いつの間にか駅へ戻る道に出ていた。
入口を見て、歩調を緩める。いつもなら、ここで別れる。

蓮くんも立ち止まったけれど、手は離れなかった。

「家まで送っていい?」

顔を上げると、彼はこちらを見ていた。

「……うちまで?」
「うん。まだ一緒にいたいし」

それを言う顔があまりに普通で、返事の前に笑ってしまった。

「何?」
「ううん。じゃあ、こっち」

私はつないだ手を少し引き、いつもの改札へ向かった。
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