三十三歳、イケメン男子にご飯を奢るのが趣味になりました。
初めてのお給料が出た週、蓮くんに食事へ誘われた。

『今日は俺にご馳走させて』

バイト代で払ってもらったことはある。それでも、今度はまた少し違って、私は返事をする前に、その一文を読み返した。

金曜日、連れていってくれたのは、駅から少し歩いたところにある和食のお店だった。

「ここ、来たことあるの?」
「ううん。魚がおいしいらしい」
「楽しみ」

メニューを開き、鯛の煮付けと焼き魚の間で迷う。蓮くんも料理の写真を見ていたけれど、やがて、ふと自分の座っている椅子へ目を落とした。

「どうしたの?」
「最近、どこの椅子か気になるんだよね」
「ここのも?」
「うん。つい見ちゃう」

言われて、私も自分の座っている椅子を見た。今まで、座り心地くらいしか気にしたことがなかった。

料理を待つ間に、研修の話を聞いた。覚える商品が多く、椅子だけでも思っていた以上に種類があるらしい。

「疲れてない?」
「疲れる。でも、面白い」
「そっか。よかった」

蓮くんは頷いて、運ばれてきた料理を見た。

鯛の身は、箸を入れるとほろっとほどけた。一口食べて顔を上げると、彼がこちらを見ている。

「おいしい?」
「すごく」

満足そうに笑ってから、蓮くんも食べ始めた。

私も今週の仕事の話をした。ようやく一区切りついた案件があって、話し始めると、途中の細かい愚痴まで出てきてしまった。

「ごめん。今日は蓮くんのお祝いなのに」
「聞きたいよ」
「そう?」

彼は箸で魚の骨を外しながら答えた。

「真帆さんが何してたか、知りたいし」

私はお茶に手を伸ばした。

こういうことを、何でもない顔で言う。蓮くんは私を見て、少し笑った。
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