浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
「はぁ……」
ペンブローク公爵邸の一室では、重苦しい溜息が部屋を満たした。
シャルロットは大きな鏡台の前で侍女のサリーに髪を整えられながら、暗い表情で鏡の中を見つめている。
「本当に行かなきゃだめかしら?」
「そりゃあ、招待状をいただいておりますからね。『未婚のご令嬢は全員出席されたり』と。心やすいじゃないですか、クリス様はもともと親友なんですから」
サリーが髪飾りの位置を調整しながら、励ますように声をかける。
「どこがよ」
シャルロットは小さく唇を噛んだ。
あの夜以来、王城の廊下で偶然会った時の挨拶を除けば、シャルロットは徹底して彼を避け続けてきた。
去り際にクリスが見せた寂しそうな顔は、今でも目に焼き付いている。
性別を偽ってもなお、常に命を狙われる危険の中で生きてきたクリス。
真実を明かし、元王妃を失脚させたからと言って、今なお安心できる状況だとは言えない。貴族はそれぞれの派閥で争っているのだ。
クリスは心細い思いをしながらも、必死に己の役目を果たそうとしている。
長年の親友であったシャルロットと言葉を交わし安らぎを得たいのだろうということは、痛いほど理解できた。
「他家のお嬢様方からの視線も怖いし。大人しくしているに限るわ」
「確かに、フェルナンド王子の元婚約者が、新しい王子とも仲良くしてたらご令嬢方は腹立ちますもんね」
サリーが納得したように頷く。
歯に衣着せぬ物言いに眉をひそめる者もいるだろうが、シャルロットはサリーの取り繕わない素直さを好ましく思っていた。
彼女の言葉通り、今の自分が彼に近づけば不必要な誤解を生むだけだ。
クリスチャンの立場をも危うくしかねない。
「お父様のおそばを離れず、無難にやり過ごさなきゃ」
「そんなわけにも行かないでしょう。だってロティお嬢様はこれから結婚相手を探さなくてはならないんですから」
現実的な言葉に、シャルロットの胸がちくりと痛む。
自分は、公衆の面前で婚約を破棄された身だ。
不名誉な事実は覆せない。
だが、このまま実家に引きこもり、行かず後家になるわけにもいかない。ペンブローク公爵家の名誉のためにも、新たな一歩を踏み出す必要があった。
「そう。クリス王子に見つからないよう気をつけながら、私は結婚相手探しよ」
鏡に映る自身の強張った顔に向けて、シャルロットは言い聞かせた。
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