浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています

 会場は、眩いばかりのシャンデリアの光と、香水の香りで満たされている。
 
 華やかではあるが、贅を尽くしているわけではない。
 調度品や装飾は、長年保管してあったものを使っており、花は庭に咲いている季節のものをふんだんに利用している。
 クリスチャンの指示だろう。
 無駄遣いを省きながらも品良くまとめた装いが、彼らしい。

 喧騒から離れた壁際に、シャルロットは一人で佇んでいる。
 妙齢なご令嬢たちの談笑に加わることもできず、ただ手元のグラスを見つめた。

「あらシャルロット様もいらしてるわ」

 扇で口元を隠しながらわざとらしい声を上げたのはリリアンナ・ベルモンド子爵令嬢だ。
 フェルナンドの新しい婚約者として発表された途端に彼が追放され、さぞ大人しくなるかと思いきや『私は何も知らなかった。王子から強引に迫られて断れなかった』とさめざめと泣き、同情を買った。
 社交界では『フェルナンド王子の被害者』と認識されており、『フェルナンド王子の暴走を止められなかった』と酷評されているシャルロットへの扱いとは対照的だ。

「ここは未婚の貴族の娘が来る場所よね。勘違いなさったのかしら?」
「いやだわリリアンナ様、お忘れになって? シャルロット様は長い間婚約状態だっただけよ。確かに未婚でいらっしゃるわ。ほほほ」

 リリアンナの取り巻きが、突き刺さるような冷笑とともに囁く。
 健康を取り戻した国王が執務に戻ったこと、元親友の復権と活躍は喜ばしいことだ。しかし、シャルロット自身の立場は極めて微妙なものになっていた。

 『裏切り者のフェルナンド王子、その元婚約者』

 フェルナンド王子の婚約者として長年過ごした事実が、シャルロットの肩に重くのしかかる。
 幼い頃から未来の王妃としての教育を叩き込まれ、常に周囲から離れひとりで過ごしてきたシャルロットには、味方と呼べる友人は一人もいない。
 そう。王女であった、クリスティーヌを除いて。
 
 かつての親友の顔を思い出すと同時に、会場の正面にある重厚な扉が左右に大きく開かれた。

「クリスチャン殿下のご入場です」

 従僕の声が響き渡り、会場中が歓声と拍手に包まれる。
 
 現れたクリスチャンは正装に身を包み、堂々たる足取りで歩を進めた。
 ドレスを纏っていた頃の美しい面影を残しながらも、男性としての逞しさと、騎士のような力強さを放っている。その色気に当てられたか、数人のご令嬢が失神した。
< 13 / 28 >

この作品をシェア

pagetop