浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
「ご無沙汰しております。その後、落ち着かれましたか?」
見知った親族の姿に、シャルロットの強張っていた肩の力が少しだけ抜けた。
「ようやく伯爵家の仕事にも慣れてきたよ」
ヨハネスは伯爵家の次男だ。
自身で身を立てるべく、長年騎士団に所属しその腕を磨いた。しかし、半年と少し前に兄であるハイネマン家の長男が急死。急遽、実家へと呼び戻された。
細々としたことを片付けながら、先日、正式に跡継ぎとして認められたところだ。
「以前お話しされていた、新しい水車小屋のお話はいかがなさいまして?」
「兄上が熱心に準備してくれていたからね。おかげで、ほぼ全ての水車小屋で動力装置を一新できたよ。今年は昨年の倍の早さで小麦を出せる」
ヨハネスは誇らしげに胸を張った。亡き母の生家ハイネマン伯爵家も、生真面目な家系だ。
それから彼は、少し揶揄うような口調でシャルロットに言う。
「ロティお嬢様こそ、このしばらくは大変だったろう」
「お陰様で。どなたからもお声がかからないので壁の花をしております」
シャルロットが自嘲気味に微笑むと、ヨハネスは声を立てて笑った。
「ははは、もったいないことだ」
彼の声に重なるように、楽団が演奏を始める。軽快で優美なワルツだ。会場の視線が一斉にダンスホールへと向く。
「ではお嬢様、私と一曲踊っていただけますか?」
ヨハネスが丁寧に右手を差し出し、美しい一礼を捧げた。
「ええ、喜んで」
シャルロットはその手をとり、ヨハネスの導きに従ってホールの中心へと進み出す。
軽やかな音楽に合わせて、二人は息の合ったステップを踏んだ。
ヨハネスの頼もしいリードに身を任せていると、周囲の冷たい視線も一時だけ忘れられる。
舞踏会で楽しく踊るなど、いつぶりのことだろうか。