浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
「クリスチャン様、お顔色がひどいわ。お疲れですのね」
次から次へとやってくるご令嬢たちの相手をしていると、リリアンナ・ベルモンドがそっと話しかけてきた。
王子であるフェルナンドに取り入りシャルロットを蹴落とそうとしたこの女は、厚かましくも、次に王子となったクリスチャンにも取り入ろうとしている。
フェルナンドを追放した折り、この女もさぞおとなしくなるかと思いきや、存外、バイタリティがあった。
「いいえ、健康そのものですよ。ご心配には及びません」
本当なら、シャルロットを傷つけた女など今すぐにでも追い出してやりたい。
だが、クリスチャンはその思いをグッとこらえ、貼り付けた笑顔で返す。今の己には、まだその力も権利もないと心得ている。
そんな気も知らず、リリアンナはねっとりとした視線を向けてきた。
「クリスチャン殿下、もしよろしければふたりで話しませんこと?」
「……なぜです?」
無作法な声掛けに、クリスチャンは愛想笑いを忘れそうになりながら聞き返した。
「私、思うんです。私たちって似た者同士じゃございません?」
潜められた声音が、クリスチャンの耳に絡みつく。
「クリスチャン殿下は長年そのご身分を隠されていました。元王妃様にお命を狙われフェルナンド様に虐げられ苦しい時を過ごされたそのお苦しみ、私にはよくわかります。だって私も同じですもの。フェルナンド様に迫られて私、すごく恐ろしかったんです。第一王子ですもの、断ることなどできませんでしょう」
自ら婚約者のいるフェルナンドに迫りシャルロットの地位を奪おうとした女は、恥ずかしげもなく『自分は被害者だ』とのたまう。
その醜悪さに吐き気を催しそうになりながら、クリスチャンは拳を握る。
「私たち、同じ苦しみを味わったんだわ。ですから、私が今も感じている恐怖をお分かりいただけるんじゃないかと思うんです。……私、こわいの。また彼が来るんじゃないか、追放されてもなお私を奪いに戻ってくるんじゃないかと恐ろしくて……ああ、倒れそうだわ」
よろめくふりをしながらもたれかかって来た彼女の手を、クリスチャンは思わず跳ねのける。
会話だけならまだしも、不躾にも触られるなど、耐えられないことだった。
驚いた顔で振り向くリリアンナを見下ろす。
「ああ失礼。少々品のない羽虫が耳元で噪いでいるのかとばかり思い振り払ったのですが、あなたでしたか」
「……なっ!」
リリアンナは顔を真っ赤にして言葉をつまらせた。