浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
クリスチャンは表情を変えぬまま、少し離れていた場所に立っていた若い男に声をかける。
「君、ああそこの君だ。ベルモンド子爵令嬢のご体調がすぐれないらしい。悪いが今すぐ休憩室へお連れして差し上げてくれ」
「え、あ、いえ私は殿下に……」
あわてて止めようとするリリアンナの声を無視してクリスチャンは続ける。
「無理をするのは良くない。少し休んで今夜はそのままお帰りいただいた方が良いだろう。君、彼女を休ませたらベルモンド子爵をお呼びして、一緒に御帰宅いただくように伝えてくれ。では、お大事に」
思いもよらない展開だったのだろう。
顔を真っ赤にするリリアンナを真面目そうな若者に託し、クリスチャンはため息をついた。
いったい、何をしているのだろうか。
夜会を開いたのは、少しでもいいからシャルロットと話したかったからだ。
彼女には徹底的に避けられている。
手紙を出しても形式的な返事しか返ってこない。王城で偶然会っても、堅苦しい挨拶だけですぐに立ち去る。その様子を見れば、拒否されている事などすぐに察せた。
シャルロットはきっと、怒っているのだ。当然だろう。長年クリスチャンに騙されていたのだから。
親友だと思っていた王女が実は男だった。
そんなの、受け入れられるはずがない。簡単に許してもらえるはずがない。
そう分かっていても、クリスチャンはシャルロットを求める気持ちを止められなかった。
『未婚のご令嬢は全員』と招待状に書き足せば、彼女は出席せざるを得ない。
目論み通り、シャルロットはやって来た。
だが、クリスチャンに近寄ろうともせず、遠く隅の方で父親や親戚と話しているだけだ。そしてクリスチャン自身もまた、ご令嬢たちに囲まれて身動きが取れずにいる。
リリアンナがいなくなった場所へと滑り込んできた別のご令嬢に愛想笑いを返しながら、クリスチャンはシャルロットを覗き見た。これ以上なく険しく鋭い瞳で、シャルロットとヨハネスの姿をじっと見つめる。
その瞳には、親友に向ける温かさなど微塵もない。
底知れぬ、暗い光が宿っていた。
*