浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
ーードン!
きらびやかな都から遠く離れ、国境を少しだけ越えたエルグレコ王国の領地。冷たい隙間風が吹く古い邸宅の一室に、その男はいた。
グラスをテーブルに叩きつける激しい音が、埃っぽい部屋に響く。
フェルナンドだ。
身なりはすっかり荒れている。
かつて第一王子であった頃の面影は消え失せ、髭すら満足に剃られていない顔には、深い疲労と怨嗟が刻まれていた。
自分を匿うだけで、ろくに援助の手を差し伸べようとしない叔父であるエルグレコ王への不満も、彼の内側で黒く渦巻いている。
王の妹である母は救援を求めエルグレコの都へ向かったが、いつ戻るのかはわからない。
「どうにかしなきゃいかん。俺は、こんなさびれた場所で一生を終えるような人間ではない」
フェルナンドは自身の髪をきつく掻きむしった。
「すっかり騙されたぜ、あのペテン野郎」
王女として振る舞い、虎視眈々と隙を窺っていたクリスチャンの顔が思い浮かぶたび、激しい怒りで視界が灼けそうになった。
奥歯をガチリと噛みしめる。
フェルナンドの顔は、復讐の念に不気味に歪んでいく。
「このままで済むと思うなよ……」
暗がりの部屋の中で、低く、執念深い呟きがこぼされた。