浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
第4話:就任
ペンブローク公爵家の書斎は、厳格な空気が漂っていた。
磨き上げられた机のそばに立つペンブローク公爵は、一通の書状を取り出す。
書状には国王直々の印が押されていた。
「財務相談役?」
シャルロットはその役職名をなぞるように呟き、驚きに目を見張った。
「ああ。陛下が、お前がフェルナンド元王子の財産管理をしていたこの二年間の記録を当たられたそうだ。見事なまでに無駄を切り詰め投資を手掛け、個人の借財を減らしたその手腕を買いたいと、直々のお申し出だ」
父の言葉に、シャルロットは思わず困惑の色を隠せなかった。
「いえ、フェルナンド様の借財は増えましたし、あの方の帳簿は赤字のままでしたが?」
「余ればそれだけ使ったからだ。浪費のために次から次へと借金を拵えたが、二年前の時点で負っていた借入はもうすでに返済してあるだろう」
父の指摘に、シャルロットの記憶が蘇る。
何日も寝る間を惜しんで計算を繰り返し、ようやく一か所の借金を完済したと思えば、その直後にフェルナンドが新しい借入をしてきた。
負けじと返済のために切り詰めたが、余剰金ができた翌日にはお金が子爵令嬢リリアンナへの贈り物へと変わってしまう。あの時はさすがに横転した。
記憶の中の虚しさと徒労感が、身体を重くする。
……嫌なことまで思い出してしまった。
シャルロットは小さく息を吐く。
「新しい財務大臣にお任せするのが、一番角が立たないのではないでしょうか? 女の私が目立つようなことをするのは、他家の皆様への印象も良くないかと」
「それはその通りだ。だが、新しく任命された者が王家の抱える問題を一から理解し有用な改革に勤めるには時間がかかりすぎる。待ったなしで動かなければならないのだ。その点……」
「私なら、火の車であったこの国の財務状況を一番わかっておりますものね」
直接手を付けられたのはフェルナンドの私的財産と帳簿類だけだが、その過程で、国庫の出納や財政状況についてもあらかた目を通している。
彼自身が、国庫からも借り入れを行っていたためだ。
自分の財布と国の財布の見分けもできないフェルナンドに何度も頭を抱えたが、それゆえ、シャルロットはこの国の財政状況も詳しく知るひとりとなった。
「確かに、議会にはお前の登用を反対する声もある。手伝った程度で、お前が万人から良い印象が持たれるとも思わん。だが問題は……」
父は、珍しく言葉を濁すように視線を落とした。