浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
 首元まで隠れる、彼女の貞淑さを表したようなドレスを纏うその佇まいには、隠しきれない気品があふれていた。
 亡くなった第二王妃の娘、と言う立場でありながらも聡明で頭の良い彼女は、社交界で稀代の美女と囁かれている。

 しかしそれを鼻にかけるでもなく、クリスはいつも王城の片隅で静かに過ごしていた。
 幼少期に病弱であったという理由からか、すっかり健康になった今でも結婚の話は一つも出ていない。それどころか『女のくせに』と陰口を叩かれながらも護身術や馬術を習う風変わりな姫として扱われている。

「大丈夫、落ち込んでなんかいないわ」

 シャルロットは、そんなクリスのさっぱりとした性格が、心から好きだった。
 他の貴族令嬢たちのように、誰かを蹴落とそうとするギラギラとした視線が彼女にはない。王の娘だからこそ持ち得る、静かな気高さを持つ彼女。
 クリスと親友であることが、シャルロットにとって唯一の救いなのだ。

「フェルナンド様に嫌われているのは、ずっと昔からのことだもの」

 シャルロットは、精一杯の穏やかな声を絞り出した。

「ロティ……ごめんなさい、本当に」

 クリスは悲しそうに眉をひそめ、シャルロットの手をそっと包み込んだ。彼女の手のひらは、護身術を習っているせいか、姫君にしては少し大きく骨ばっている。
 だが、何より安心できる温もりを持っていた。

「いいの。あなたが居てくれて良かったわ、クリス」

 親友のあたたかさに触れ、シャルロットの強張っていた心が少しだけ解けていく。

「さあさあクリスティーヌ王女、シャルロット様も、若いお嬢様方に暗いお顔など不要です。お茶を淹れ直しましょうね」

 クリスの乳母マージが、明るい声を響かせた。ささっと新しい茶器を用意していく。
 母親を早くに亡くしたクリスにとって乳母のマージは母親代わりだ。シャルロットにとっても心が休まる女性の一人だった。

 どれだけ婚約者に冷たくされようとも、婚約者の母親である王妃から嫌われていようとも、この王城内にただ一人、クリスがいてくれたらいい。親友であるクリスがずっと一緒にいてくれたら、どんな困難にも耐えられる。

 シャルロットは胸の奥でそっと誓いを新たにした。

「ねぇ、クリス。ずっと親友でいてね」
「ロティ……」

 クリスは一瞬、何かを堪えるように視線を落とす。その横顔に影が落ちた。
 しかし次の瞬間には、眩しい笑顔を浮かべてシャルロットを見つめ返した。

「私たちは、ずっと一緒よ」

 その微笑みの奥にある微かな歪みに、シャルロットが気付くことはない。


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