浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています

 シャルロットは、その凄まじい物量に絶句した。
 机の上以外にも、ワゴンに載せられたままの資料がある。

「……かしこまりました」

 しかし怯んでいる暇はない。
 引き受けたからには、やるしかないのだ。

「あの殿下……ざっと確認するにも、指針がなければ無駄が生じます。ご相談内容の主だった部分をあらかじめ教えていただけますか?」

 シャルロットは事務的なトーンを保ったまま問いかける。クリスチャンは頷き、書類の束をめくりながら状況を説明し始めた。

 エルグレコ王国への膨大な借入金の返済、それに伴う利息の支払い。
 国内の主産業の効率化、荒廃した農地の整備、中断していた鉱山の採掘の再開、関税の管理、そして国防の強化。
 とにかく、金が絡む全ての面で問題が山積みだと言う。

「資料の抜け漏れが多く、現状の収支が把握できない。元王妃とフェルナンドに任せるしかなかったが、帳簿がしっちゃかめっちゃかなんだ。従って、この先それぞれの問題に対応するに当たり、どれほどの資金が残されているのか、どこにどれだけ配分すべきかも分からない。……もう少し、僕が関わって来れたら良かったのだが」

 クリスチャンは自嘲気味に笑った。
 王女として日陰に身を置くしかなかった彼の、当時の無念さがその言葉から滲み出ている。

「わかりました。現在の状況を整理し、未来の予算配分の検討ですね」

 シャルロットが的確に要点をまとめると、クリスチャンの顔に、張り詰めていた緊張が解けるような安堵の表情が浮かんだ。

「ありがとうロティ。君だけが頼りだ」

 そう言って、クリスチャンは自然な動作で右手を差し出す。
 一瞬、シャルロットは躊躇った。

 王子の手を握っても良いものなのだろうか。

 ……だが、仕事のパートナーとしての礼儀だ。差し出された手を、シャルロットはしっかりと握り返す。

 最後のお茶会以来、初めて触れるクリスの手。

 手のひらは大きく、指の関節はごつごつと節が立っている。
 長年、そばにいた親友の手。
 女性にしては大きいと思っていた手。
 女性にしては柔らかさが少なく角ばっていると感じていた手。

 なぜ今まで気付かなかったのだろうか。
 こんなにも、クリスの手は男性のそれだ。

 
 握り合わされた手の熱が、直接伝わってきた。
 シャルロットの鼓動が急激に早くなる。胸の奥が締め付けられるように痛み、シャルロットはたまらず、その手を離した。



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