浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています

 必要な打ち合わせを終え、帳簿や大量の書類を来客用の執務室へと引き渡す。

「じゃあ、よろしく頼む」
「はい。お任せください」

 簡単な挨拶を済ませると、シャルロットは侍従たちと共に退室した。

 扉が閉まる。

 シャルロットの姿が見えなくなった瞬間、クリスの表情から、王子然とした顔が消えた。
 穏やかさと激しさ。
 歓喜と苦痛。
 そして熱を帯びた、ほの暗い色に染まっていく。

 自分がどれだけ卑怯者なのかは、クリスチャン自身が一番よく分かっていた。
 長い間、側にいてくれたシャルロット。親友である自分が性別を偽っているなどとは夢にも思わず、仲良くしてくれていたシャルロット。
 本当の姿を知ってからも、彼女は責めなかった。
 内心では怒っていることだろう。だが、他の者達と同じように、ただ事実を受け入れたような顔でそこにいる。

 わかっている。

 謝って、騙していたことへの許しを請うべきだ。そうしないままでいるのは、シャルロットに対して失礼なことなのだと。

 だが、怖い。
 許してもらえなかったら?
 本当は話すのも嫌だと言われたら?

 『仕事上、そして王子という立場上、礼儀正しく接してくれているだけなのだ』と言われてしまったら、きっともう立ち直れない。
 彼女と一緒にいるためには、このまま有耶無耶にするしかないのだ。

「……ずっと一緒だ、ロティ」

 誰にも見せないクリスの苦しげな呟きが、誰の耳にも届かない廊下の暗がりに溶けて消える。

 クリスはシャルロットが握り返してくれた右手を左手で包む。大切に、大切に、自らの胸元へと押し当てた。
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