浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
第5話:もう、誰にも
「街道整備に関する書類はどちらですか?」
シャルロットが声を上げると、すぐに一人の侍従が歩み寄る。
「こちらです。西部と南部で分けてあります」
「では、こちらの貸付金に関しての書類は?」
「ただいまお持ちいたします」
ペンブローク公爵家の令嬢シャルロットに与えられた臨時の執務室は、またたく間に書類の海へと変わっていった。
しかし、山積みにされた古い帳簿や分厚い契約書の山を前にしても、シャルロットの瞳は生き生きとした輝きを放っている。
小気味よい音を立てて算盤を弾いた。
「小麦の年間収穫量を数十年分改めたいのですが」
「かしこまりました。書庫からすぐに運びます、シャルロット様」
フェルナンドの傍らにいた頃は、どれほど声を上げても侍従から無視されるか、面倒くさそうに後回しにされるのが常だった。
しかし今は、シャルロットの問いに対して即座に返事をしてくれる。そして正確だ。
クリスチャンが実権を握ってから断行された大幅な人事異動により、怠惰な者たちは淘汰され、働き者が重宝される健全な現場へと塗り替えられつつある。
その快適さが、シャルロットの指を加速させた。
「シャルロット様、休憩のお時間です」
侍女がワゴンを押しながらやってきた。
随分と長い時間、夢中で仕事をしていたようだ。外に目をやると日が傾きはじめており、もうそんな時間かと驚かされる。
「あら、このクッキー……」
お茶とともに供されたのは、スパイスの効いたジンジャークッキーだ。これを濃いめに出したミルクティーと一緒に食べる。それが、シャルロットのお気に入りのおやつだった。
給仕をしてくれた侍女が部屋を出て、部屋に一人になる。
シャルロットはクッキーを手にし、クリスチャンの顔を思い浮かべた。
言われなくても分かる。
シャルロットの好みを熟知した彼が、シャルロットのために用意させてくれたのだ。
サクリ……ひと口かじる。
ジンジャーやシナモン、幸せの香りが口の中を満たした。
「……クリス」
何度、このクッキーを一緒に食べただろう。
何度、一緒にお茶会をしただろう。
共に過ごした時間が思い出され、シャルロットの胸がいっぱいになった。
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