浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
 昔、フェルナンドにどれほど尽くしても、あの人からこんな風に心配されたことなど一度もなかった。
 元婚約者への複雑な思いが胸をよぎり、シャルロットはそれ以上の言葉を濁す。

 少しの沈黙の後、クリスチャンは席に座り直すと優雅な手つきでティーカップを持ち上げた。
 その流れるような、洗練された所作を見て、シャルロットの口元から思わず笑みが漏れる。

「……ふふっ」
「何だい?」

 不思議そうに小首を傾げるクリスチャンに、シャルロットは慌ててハンカチで口元を抑えた。

「あ、申し訳ありません」
「何? どうして笑っていたのか教えて、ロティ」

 楽しそうに追及してくるクリスの親しげな態度に、シャルロットは小さく白旗を上げるように、再度微笑んだ。

「あの……カップをお持ちになる仕草に、少々女性らしさが残っていらっしゃるかと」
「はっははは、確かにね。なかなか抜けなくて困っているんだ。マージの淑女教育は完璧だったから」

 クリスチャンは声を上げて、少し困ったように笑った。
 マージは誇らしげに目を細める。

「ええ。そりゃあもう、どこにお出ししても恥ずかしくないお嬢様としてお育てしましたからね」

 部屋には和やかな笑い声があふれた。
 母親と国王ーークリスの両親以外に、彼の真の姿を知っていたのはマージだけだったという。
 母を亡くして以来たった一人、最も近くで秘密を守り、彼を守った、一番の功労者だ。
 クリスチャンの復権を一番喜んでいるのは、マージかもしれない。


 良かった。
 シャルロットはひそかに胸を撫で下ろした。

 クリスチャンが女性として過ごした過去の話に触れるなど、許されないことではないかと恐れていたのだ。
 シャルロット自身にとっては大切な思い出だが、クリスチャンからすれば、抑圧された辛い過去に違いない。
 彼を傷つけるのではないかと心配したが、杞憂だったようだ。

 朗らかに笑うクリスチャンを見つめ、シャルロットはもう一度微笑んだ。




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