浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
ーーコンコン。
控えめなノックをする。しかし、返事がない。
追加の騎士団関連の資料を抱えたクリスチャンは、大きな音を立てないよう気を付けながら部屋の扉を開けた。
シャルロットは集中すると音が聞こえなくなる時がある。
今も、そうなのかもしれない。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った執務室は、月明かりと数本の蝋燭の光だけに照らされていた。
「ロティ、騎士団の……」
声掛けの途中で、クリスチャンは口をつぐんだ。
シャルロットは羽根ペンを握ったまま、机に突っ伏して規則正しい寝息を立てている。
クリスチャンは足音を立てぬよう近づき、資料をそっと傍らに置いた。
「お疲れ様、ロティ」
クリスチャンは軽々と彼女を抱き上げると、続き間の寝室まで運んだ。
起こさぬよう細心の注意を払いながら、大切に、大切に、シャルロットの身体をシーツの海へと横たえる。
顔にかかってしまった髪を、手櫛で整えてやった。
羽毛の布団を優しく肩まで掛ける。
クリスチャンは身をかがめ、膝をついた。
無防備に眠るシャルロットの顔をじっと見つめる。その瞳には慈愛と、それ以上の想いが浮かぶ。
「……もう、君を誰にも渡したくないんだ」
低く掠れた、甘い毒のような独白が、静まり返った部屋に溢される。
クリスチャンはシャルロットの滑らかな額にそっと、だが深く痕を刻むようにキスを落とした。
唇が離れた後も、その場を動こうとはしない。
眠る彼女の白い頬に触れる。
壊れやすい細工物を愛おしむように、そして暗く静かな独占欲を込めて、何度も何度も指先でなぞり続けた。