浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
きらびやかな王城から遠く離れた、都の片隅。
壁の塗装が剥げ落ちた、光の届かない暗い部屋に、数人の男たちが集まっていた。
ーードン!
激しく机を叩く音が、重苦しい空気を切り裂く。
集まっているのは、元王妃の没落に伴って権力を失いかけている貴族たちだ。その顔には、焦りと醜い怒りが刻まれている。
「このまま奴の言いなりになるなど、許せん!」
リリアンナの父、ベルモンド子爵が声を荒らげると、対面に座る男が忌々しげに鼻を鳴らした。
「ベルモンド殿は、何か良い案はないのか」
「貴公こそ、有用な案などひとつも出さないではないか」
集まった者たちは、互いに焦りと不快感をなすりつけ合う。
部屋の中には見苦しい罵声が飛び交った。
その醜悪な言い合いを遮るように、部屋の奥から低く、重みのある声が響いた。
「お静かに」
冷や水を浴びせられたかのように、その場がピタリと静まり返る。
声の主は、その役職を罷免された元宰相、オルト卿だ。
「私に妙案があります」
オルト卿の言葉に、先ほどまでいがみ合っていた貴族たちが、一斉に身を乗り出した。
「ほう」
「さすがは卿。どのような?」
男たちの視線が集まる中、オルト卿は机の上の蝋燭の光を見つめながら、静かに口を開いた。
「ようするに、うまくいかなければ良いのです。勢いづいている時ほど、何か一つでも失敗するとその勢いがそがれるもの」
オルト卿はゆっくりと視線を上げ、集まった面々を見渡した。
「……例えば鉱山の採掘。何らかの隙に頼みの綱である採掘事業が頓挫すれば、さぞがっかりされることでしょうね」
言葉の真意を察した貴族たちの顔に、じわじわと下卑た笑みが浮かび上がっていく。
「ああ、そうだ。採掘が頓挫すれば……」
暗闇の中で、男たちのニタついた笑い声が気味悪く広がる。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎が、オルト卿の鋭く光る瞳を不気味に照らした。
彼の脳裏には、今や国の希望として祭り上げられている第二王子の姿が浮かんでいる。
「自分勝手に進められるだなどと、思わないことですねぇ『クリスティーヌ王女様』」
オルト卿の薄い唇が大きく吊り上がり、底知れない悪意をはらんだ不気味な笑みを浮かべた。