浪費家王子に婚約破棄されましたが、王女だった(隠れ)王子に財務相談役として囲い込まれています
第7話:もう少し、明るくなるまで
「ダメです、無理です、承服いたしかねます!」
旅立ちの朝。王城の馬車寄せは、にぎやかな空気に包まれていた。
豪奢な王家の紋章が金色に輝くクリスチャンの馬車と、その背後に控える実務的な実用性を最優先したペンブローク公爵家の馬車。
二つの車両を前にして、シャルロットは眉を吊り上げ、自身の両手を胸の前で大きく交差させてみせた。
毅然とした、しかしどこか必死さの滲む拒絶の声に、クリスチャンは困ったように眉根を寄せる。
「だって、暇じゃないか。これからずーと馬車に乗るんだよ? 移動するだけだ。一緒に乗っていた方がずっと楽しいよ」
「暇であるはずがございません。私は、これから鉱山や製鉄に関する資料を読みますもの」
シャルロットは、自家の馬車の扉を自ら開け、その座席を指差す。
そこには、背もたれが見えなくなるほど積み上げられた資料の山がある。
クリスチャンは、明らかに肩を落とし、深く大きなため息をついた。
それから数日間の旅路を経て、一行は雄大な山々に囲まれたランメルバーク鉱山へと到着した。
麓の公邸で動きやすい服へと着替え外へ出たシャルロットは、圧倒されるような山肌を見上げて小さく息を漏らした。
「まぁ、なんて大きな山なのでしょう」
ここからは馬車が通れないほどに、細く険しい山道が続いていると言う。
近衛兵たちが手際よく馬の手綱を引いて集まる中、クリスチャンは慣れた動作で馬に跨ると、シャルロットへ大きな手を差し出した。
「さあロティ、僕の馬に」
紳士らしい自然な動作に、シャルロットの心臓が大きく跳ねる。シャルロットは慌てて半歩後ろへと下がり、首を横に振った。
「いえ、殿下の馬に乗せていただくなどとんでもないことです。私は近衛兵の馬に」
仕事として彼を支え、財務の建て直しに貢献するのだと固く決意した。
だが、クリスチャンの近くにいると思考がまとまらなくなり、自分が自分でなくなっていくような奇妙な感覚に襲われてしまう時がある。
幼い頃からの親友であろうとも、王子と臣下という一線を、ここで踏み越えてはならない。
シャルロットは自身の指先を強く握り締め、近衛兵の馬へと向かった。