恋の花火がきえる時。
後ろから、椅子が小さく揺れる音がした。

「……くだらないこと言うな」

 光輝の声は、いつもより少し低かった。

 理紗は振り返り、彼の顔を覗き込む。

「光輝、怒った?」

「怒ってない」

「顔、怖いよ?」

「元から」

「それはそうかも」

「おい」

 理紗は吹き出した。

 光輝は呆れたようにため息をついたけれど、その表情はほんの少しだけ柔らかかった。

 窓の外では、桜の花びらが風に舞っている。

 理紗は、これから始まる中学校生活に胸を弾ませていた。

 病気のことも。
 いつか訪れる未来のことも。

 まだ誰にも知られていない。

 だから今は、ただ――

 光輝のそばで、普通の女の子として笑っていたかった。

 その日の帰り道。

「明日から、毎日楽しくなりそうだね」

 理紗がそう言うと、光輝は少しだけ空を見上げた。

「……ああ」

「ずっと一緒にいようね」

 何気ない、幼なじみへの約束。

 光輝はすぐには答えなかった。

 けれど、しばらくしてから小さく頷く。

「……約束する」

 理紗は嬉しそうに笑った。

 その笑顔を見ながら、光輝はまだ知らなかった。

 この約束が、いつかふたりにとって、何よりも大切で、何よりも苦しいものになることを。
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