恋の花火がきえる時。
光輝は答えず、先に教室へ入っていく。

 その耳が赤くなっていることに気づいて、理紗はまた笑った。

「待ってよ、光輝!」

 理紗が駆け出した瞬間、胸の奥に小さな痛みが走った。

 けれど、それはすぐに消えた。

 理紗は足を止めず、そのまま光輝の隣へ並ぶ。

「今日も一緒に帰ろうね」

「……ああ」

「約束だよ?」

「分かってる」

 光輝は前を向いたまま、理紗の歩く速さに合わせて少しだけ速度を落とした。

 理紗は気づいていない。

 光輝が、彼女の息遣いをいつも気にしていることも。
 歩く速さを合わせていることも。
 少しでも苦しそうにすれば、すぐに支えられるように手を伸ばしかけていることも。

 そして光輝自身も、まだ知らなかった。

 この何気ない日々が、いつか何よりも大切な思い出になることを。

 昼休み。

 理紗は美咲に誘われ、教室の外へ出ていた。

「ねえ、理紗って近藤くんと本当に仲いいよね」

「うん。小さい頃からずっと一緒だから」

「好きじゃないの?」

「好き?」

「男の子として」

 理紗はしばらく考え込んだ。

 光輝の不機嫌そうな顔。
 ぶっきらぼうな声。
 それでも、いつも自分のそばにいてくれること。

「……分からない」

「分からないんだ?」

「うん。光輝は光輝だから」

 理紗はそう言って、窓の外を見た。

 校庭では、光輝が男子たちに囲まれている。
 入学したばかりなのに、すでに何人かの男子と話しているようだった。

 そのとき、光輝がこちらを見た。

 目が合う。

 理紗が手を振ると、光輝は一度だけ視線を逸らした。

「ほら、今の絶対気にしてるよ」

「え?」

「理紗が見てたから」

「たまたまだよ」

「そうかなあ」

 美咲は意味ありげに笑う。

 理紗は首を傾げた。

 その頃、光輝は男子たちの話を聞き流しながら、窓際の理紗を見ていた。

 いつも通り笑っている。

 いつも通り、明るい。

 でも、今朝から少しだけ顔色が悪い気がした。

「近藤、おまえ聞いてる?」

「……ああ」

「本当に?」

 光輝は返事をせず、理紗の席に置かれた鞄へ目を向けた。

 その中には、理紗が誰にも見られないようにしまっている小さな薬の袋が入っている。

 けれど、それを光輝が知るのは、まだずっと先のことだった。

 今はただ、理紗が笑っている。

 それだけでいいと思っていた。

 それだけで、十分なはずだった。
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