恋の花火がきえる時。
「光輝って、優しいね」

「……どこが」

「こういうところ」

「意味分からない」

「分からなくてもいいよ」

 理紗はそう言って、光輝の横を歩いた。

 その帰り道。

 空は夕焼け色に染まっていた。

 学校から駅へ向かう生徒たちの波を抜け、ふたりはいつもの道を歩く。
 理紗は今日あったことを、ひとつずつ光輝に話していた。

「図書室の先生、優しかったね」

「ああ」

「美咲ちゃん、明日一緒にお昼食べようって言ってくれたの」

「ああ」

「それからね、クラスの男の子が――」

「……男?」

 光輝が足を止めた。

「うん。数学の教科書を見せてくれてね」

「なんで」

「教科書を忘れたからじゃない?」

「そうじゃなくて」

「え?」

 理紗が首を傾げる。

 光輝は何か言いかけたけれど、すぐに口を閉じた。

「……別に」

「今日、別にって何回言った?」

「数えてるのか」

「光輝の口癖だから」

 理紗は笑いながら歩き出す。

 光輝はその背中を見つめ、少し遅れて後を追った。

 しばらくすると、理紗の歩く速度がゆっくりになる。

「理紗?」

「ん?」

「疲れたのか」

「ううん。ちょっと夕焼けが綺麗だなって思って」

 理紗は足を止め、空を見上げた。

 赤く染まった雲の間から、細い月が顔を出している。
< 21 / 90 >

この作品をシェア

pagetop