恋の花火がきえる時。
「恋人らしいことって何だよ」

「えっと……手をつなぐとか」

「もうつないでる」

「じゃあ……」

 その先が言えない。

 光輝は、私の顔を覗き込んだ。

「言えよ」

「……キス、とか」

 光輝の目が、わずかに見開かれた。

 しまったと思った。

「ご、ごめん! 今の忘れて!」

 慌てて離れようとした瞬間、手首をつかまれる。

「忘れない」

「え?」

「俺は、忘れない」

 光輝の声が、いつもより低かった。

 夕暮れの帰り道とは違う、朝の静かな道。
 風に揺れた桜の花びらが、私たちの間を通り過ぎていく。

「理紗」

「うん……」

「嫌なら、今すぐ言え」

 光輝は、私の頬にそっと手を添えた。

 優しい触れ方だった。

 私は緊張しながら、小さく首を横に振る。

「嫌じゃない」

「本当に?」

「うん」

 光輝が、ゆっくり顔を近づける。

 目を閉じると、次の瞬間――

 唇に、柔らかな温もりが触れた。

 一瞬だった。

 それなのに、時間が止まったみたいに感じる。

 光輝が離れる。

 私は目を開けられないまま、胸の前で手を握りしめた。

「……今の、キス?」

「他に何に見える」

「だって、初めてで……」

「俺もだ」

「えっ?」

 驚いて顔を上げると、光輝の耳が赤くなっていた。

「光輝も、初めて?」

「ああ」

 その言葉が嬉しくて、胸がいっぱいになる。

「私のファーストキス、光輝に奪われちゃったね」

「……嫌だったか」

「ううん」

 私は、恥ずかしさを隠すように笑った。

「すごく幸せ」

 光輝は何も言わなかった。

 ただ、私の額に自分の額をそっと寄せる。

「……俺も」

 その日から、私たちの毎日は少しだけ甘くなった。
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