恋の花火がきえる時。
「だから、もう俺に構うな」

 私は唇を噛んだ。

 泣きたくない。
 ここで泣いたら、光輝にもっと嫌われる気がした。

「分かった……」

 声が震える。

「もう、光輝に迷惑かけない」

 教室を出ようとした。

 そのとき、背中から小さな声が聞こえた。

「……理紗」

 振り返りたかった。

 でも、振り返ったら泣いてしまう。

 私はそのまま廊下へ出た。

 誰もいない階段の踊り場まで来たところで、足の力が抜ける。

「……っ、うぅ……」

 涙が止まらなかった。

 光輝に嫌われた。

 大好きだと言ってくれた光輝に、もう必要ないと言われた。

 胸が痛い。

 息が苦しい。

 私は胸元を押さえながら、必死に呼吸を整えた。

「大丈夫……大丈夫だから……」

 何度も繰り返す。

 けれど、涙だけは止まらなかった。

 一方、教室では。

 光輝は理紗が出ていった扉を見つめていた。

「近藤……今の、さすがに言いすぎじゃないか?」

 男子の一人が、気まずそうに口を開く。

「彼女なんだろ?」

「……もう、違う」

 光輝はそう答えた。

 けれど、声はひどく掠れていた。

 机の下で握りしめた手のひらに、爪が食い込む。

 本当は追いかけたかった。

 理紗を抱きしめて、全部嘘だと伝えたかった。

 疲れたわけじゃない。
 迷惑だと思ったことなんて、一度もない。

 ただ、自分がいなくなったあとも、理紗が生きていけるように。

 自分への想いを、少しでも薄れさせるために。

 嫌われるしかないと思った。

 光輝は、誰にも見えないように唇を噛んだ。

「……これでいい」

 そう呟いた声は、誰にも届かなかった。

 放課後。

 理紗はひとりで帰ろうとした。

 いつもなら、校門の前に光輝がいる。

 でも、今日は誰もいなかった。

 空は今にも雨が降りそうなほど、灰色に曇っている。

 理紗は、ぎゅっと鞄の紐を握った。

「光輝なんて……嫌い」

 口にしてみる。

 けれど、胸の奥から返ってきたのは、別の言葉だった。

「……大好き」

 涙がまた、頬を伝う。

 その頃、校舎の二階から光輝は、ひとりで歩いていく理紗を見ていた。

 傘を持っていない。

 今にも雨が降り出しそうなのに。

 光輝は、反射的に鞄から傘を取り出した。

 追いかけようと、一歩踏み出す。

 けれど、すぐに立ち止まった。

 もう、俺に構うな。

 自分で言った言葉が、胸を締めつける。

「……理紗」

 窓の外で、大粒の雨が落ち始めた。

 理紗の小さな背中が、雨の向こうに消えていく。

 光輝は傘を握りしめたまま、その場から動けなかった。

 守ると約束したのに。

 今、自分が一番理紗を傷つけている。

 それでも光輝は、追いかけなかった。

 理紗を守るために、嫌われると決めたから。

 そして理紗は、光輝が見ていることを知らないまま、ひとり雨の中を歩いていた。
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