恋の花火がきえる時。
光輝は、私の手を握ったまま空を見上げる。

「花火、見られるといいな」

「見られるよ」

「どうして言い切れる」

「光輝と一緒だから」

 光輝は、困ったように目を逸らした。

「……そういうこと、簡単に言うな」

「どうして?」

「期待するから」

 小さな声だった。

 けれど、その意味を聞き返す前に、終業式のチャイムが鳴った。

 夏休みが始まる。

 それは、私たちにとって特別な季節になるはずだった。

 数日後。

 私は浴衣を選ぶために、母と一緒に店へ向かった。

「光輝、どんな色が好きかな」

「理紗は何を着ても似合うと思うわよ」

「でも、光輝に可愛いって思ってほしい」

 言ってから、急に恥ずかしくなった。

 光輝と恋人になって、初めての夏祭り。

 手をつないで歩いて、屋台で何かを食べて、最後に花火を見る。

 そんな未来を思い浮かべるだけで、心が浮き立った。

 その夜、光輝からメッセージが届いた。

『花火の日、空けておけ』

 短い文章。

 私はすぐに返信した。

『うん! 絶対に一緒に行こうね』

 しばらくして、返事が届く。

『ああ。約束だ』

 画面を見ながら、私は笑った。

 けれどその頃、光輝は病院の廊下で、医師から告げられた言葉を聞いていた。

「次の治療日ですが、夏祭りの日と重なる可能性があります」

 光輝は、膝の上で拳を握りしめる。

「……その日は、どうしても外せない予定があります」

「近藤くん、体調を優先しないと――」

「分かっています」

 光輝は窓の外を見た。

 夕暮れの空に、夏の雲が広がっている。

 理紗と見るはずの花火。

 絶対に行くと約束した。

 その約束を守りたい。

 でも、もし守れなかったら。
 また理紗を泣かせてしまったら。

 光輝は、スマートフォンを取り出した。

 画面には、理紗から届いたメッセージが残っている。

『浴衣、選んできたよ! 当日まで秘密ね』

 光輝はその文字を、何度も指でなぞった。

「……見たい」

 浴衣姿の理紗を見たい。
 隣で笑う理紗を見たい。
 花火が上がった瞬間、一緒に空を見上げたい。

 そのすべてを、諦めたくなかった。

 一方、理紗は自分の部屋で、花火大会の日までの日数を数えていた。

「あと五日……!」

 カレンダーに小さな丸をつける。

 光輝と付き合って、初めての夏祭り。

 きっと、忘れられない一日になる。

 そのときはまだ知らなかった。

 夏の夜空に咲く花火が、ふたりにとって最高の思い出になるのか。

 それとも――

 別れを予感させる、最後の光になるのか。

 ただ、今はまだ。

 理紗は幸せそうに笑っていた。

「光輝、早く当日にならないかな」

 窓の外で、蝉の声が響く。

 夏休みが始まったばかりの空は、どこまでも青かった。
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