恋の花火がきえる時。
「光輝、本当に大丈夫?」

「大丈夫」

「……またそれ」

「理紗」

「ごめん。でも、心配なの」

 光輝は黙った。

 そして、つないだ手に力を込める。

「今日は、楽しいか」

「うん。すごく楽しい」

「なら、笑ってろ」

「光輝も一緒に笑って」

「努力する」

「努力じゃなくて、絶対」

「難しいな」

 光輝が、少しだけ笑った。

 その笑顔に、胸がきゅっとなる。

「光輝」

「何だ」

「今日、来てくれてありがとう」

「ああ」

「来られてよかった?」

 光輝は、夜空を見上げた。

 まだ花火は始まっていない。

「……来られてよかった」

 その声が、いつもより優しかった。

「理紗」

「うん?」

「今日のこと、忘れるなよ」

「忘れるわけないよ」

「何年経っても?」

「うん。何年経っても」

 光輝は、私の手の甲にそっと唇を落とした。

「……約束だ」

 その瞬間、遠くで打ち上げ花火の音が響いた。

 観客から歓声が上がる。

「始まる!」

 私たちは立ち上がり、人の少ない川沿いへ向かった。

 夜空に、一輪目の花火が咲く。

 赤、青、黄色。

 大きな光が、川面に映って揺れていた。

「綺麗……」

 私は空を見上げる。

 隣を見ると、光輝は花火ではなく、私を見ていた。

「光輝?」

「……何でもない」

「また?」

 私が笑うと、光輝はそっと私の頬に触れた。

「理紗」

「うん」

「好きだ」

 花火の音にかき消されそうな声。

 それでも、はっきり聞こえた。

「私も、好き」

 光輝は、私を引き寄せた。

 人混みの中で、誰にも見えないように、そっと唇を重ねる。

 花火が夜空で大きく咲いた。

 私は光輝の胸元を握りしめる。

 幸せだった。

 このまま時間が止まればいいと思った。

 けれど、光輝の腕が、ほんの少し震えていることに気づいてしまった。

「光輝……?」

「大丈夫だ」

「本当に?」

「……ああ」

 光輝は笑った。

 でもその笑顔は、どこか泣きそうだった。

 夜空に、最後の花火が上がる。

 光輝は私を抱きしめながら、誰にも聞こえない声で呟いた。

「これが最後でも、後悔しないように」

「え?」

「何でもない」

 私は聞き返そうとした。

 けれど、次の花火の音に、その言葉はかき消された。

 光輝は、私の髪に顔を埋める。

 そして、誰にも見えないように目を閉じた。

 この夏祭りが、ふたりにとってどれほど大切な夜になるのか。

 そのときの私は、まだ知らなかった。
< 75 / 90 >

この作品をシェア

pagetop