恋の花火がきえる時。
やがて、私の額に自分の額を寄せる。

「怖い」

 小さな声だった。

「すごく怖い」

「うん……」

「手術室に入ったら、おまえの顔が見えなくなる」

「手術が終わったら、また見られるよ」

「ああ」

「私が毎日、待ってるから」

 光輝は、私の手を握った。

「十日間、何がしたい」

「え?」

「手術までの間。おまえと、できるだけ一緒にいたい」

 私は涙を拭って、少しだけ笑った。

「じゃあ、毎日会おう」

「毎日?」

「うん。朝から夜まで」

「体力がもたないだろ」

「光輝に言われたくないよ」

「俺は病人だ」

「私も病人です」

 光輝は一瞬黙って、それから小さく笑った。

「……そうだったな」

「まずは、明日どこに行く?」

「どこでもいい」

「じゃあ、海!」

「暑い」

「水族館!」

「混んでる」

「映画!」

「寝るだろ」

「寝ないもん!」

 いつもの会話。

 いつもの光輝。

 それなのに、ひとつひとつが宝物のように感じた。

 翌日から、私たちは毎日のように会った。

 公園でアイスを食べた。
 図書館で隣り合って本を読んだ。
 夕方の商店街を、手をつないで歩いた。

 光輝は、私の写真を撮ろうとすると嫌がった。

「撮るなら、理紗だけにしろ」

「光輝も一緒に写ろうよ」

「俺はいい」

「どうして?」

「おまえの記憶に残るのは、俺だけで十分だ」

「それなら、なおさら一緒に撮るの!」

 私は無理やり光輝の肩に寄り添い、シャッターを押した。

 画面の中には、少し照れた光輝と、笑っている私。

「……いい写真」

「消すなよ」

「消さないよ。ずっと大切にする」

 その言葉に、光輝は静かに目を伏せた。

 手術まで、あと三日。

 夕暮れの公園で、私たちはベンチに並んで座っていた。
< 82 / 90 >

この作品をシェア

pagetop