恋の花火がきえる時。
「光輝」

「ああ」

「光輝」

「何だ」

「……光輝」

「ここにいる」

 そのたびに、光輝は答えてくれた。

 夜になり、面会時間が終わる頃。

 私は立ち上がれなかった。

「帰る時間だ」

「帰りたくない」

「理紗」

「ずっとここにいたい」

「明日、また来ればいい」

「明日じゃなくて、今もいたい」

 光輝は、少しだけ苦しそうに笑った。

「俺だって、ずっと一緒にいたい」

 その言葉に、また涙が溢れた。

 光輝は私の頬に手を伸ばし、涙を拭う。

「明日、来てくれるか」

「絶対に来る」

「手術室に入る前に、顔を見たい」

「うん」

「笑っていてくれ」

「無理かもしれない」

「じゃあ、泣いててもいい」

「どっちなの?」

「理紗がそこにいてくれれば、それでいい」

 私は光輝の手の甲に、そっと唇を寄せた。

「待ってるから」

「ああ」

「絶対に戻ってきてね」

「ああ」

「私のところに」

 光輝の目に、薄く涙が浮かぶ。

「戻る」

 私は何度も振り返りながら、病室を出た。

 扉が閉まる直前、光輝の声が聞こえた。

「理紗」

「うん?」

「……大好きだ」

 私は涙で滲む視界の中、笑った。

「私も、大好き」

 扉が閉じる。

 廊下にひとり残された私は、胸の前で小指を握りしめた。

 明日、光輝は手術を受ける。

 怖い。

 でも、信じるしかない。

 光輝が戻ってくると。

 私の隣に、また帰ってくると。

 その夜、私は眠れなかった。

 窓の外には、夏の星が瞬いている。

 花火の日に交わした約束を、何度も思い出す。

『来年も、その次も。そのまた次も』

 私は小さく呟いた。

「光輝……約束、守ってね」

 けれど翌朝。

 病院へ向かう途中、光輝のお母さんから一本の電話がかかってきた。

「理紗ちゃん……落ち着いて聞いて」

 その声は、震えていた。

「手術の時間が、さらに早まったの」

 私は足を止めた。

「もうすぐ、手術室へ向かうそうよ」

 空は、まだ薄暗かった。

 私は走り出した。

 光輝のもとへ。

 最後の約束を、直接伝えるために。
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