愛してるなんて、噓でしょう?

第三章 18話.神崎悠真

美月 side


「美月ちゃん、今度また悠真と会ってみない?」

蓮さんからそう言われたのは、休日の午後だった。

「悠真さんと、ですか?」

「うん。前に少し話したでしょう? 今度はもう少しゆっくり話せたらと思って」

神崎悠真さん。


蓮さんの幼なじみで、東條会の幹部。


初めて会ったときは少し怖い印象だったけれど、話してみると意外と気遣いのできる人だった。

「私は大丈夫ですよ」

「本当? よかった」

蓮さんは安心したように笑った。


待ち合わせ場所は、以前訪れた東條会関係の建物だった。


中に入ると、悠真さんがソファに座っていた。

「遅かったな」

「まだ約束の時間前だよ」

「そういう問題じゃない」

いつものように、二人は遠慮のない会話をしている。

「美月ちゃん、いらっしゃい」

「こんにちは。お邪魔します」

「どうぞ。こいつの相手は疲れるだろうけど」

「悠真、聞こえてるよ」

「聞こえるように言ってる」

二人のやり取りに、私は思わず笑ってしまった。


蓮さんがこんなふうに気を許している姿を見ると、少し嬉しくなる。


私の知らない時間を共有してきた二人。


それが少しだけ羨ましかった。

「そういえば、美月さん」

悠真さんが私に視線を向けた。

「蓮のこと、最近どうですか」

「どう、とは?」

「何か困らされてませんか」

「えっ……」

隣で蓮さんが小さく眉を寄せる。

「悠真、俺の印象を悪くしようとしてない?」

「事実確認です」

「ひどいなあ」

私は二人を見比べて、笑った。

「困ってはいませんよ。蓮さんはいつも優しいです」

「そうですか」

悠真さんは短く答えた。


けれど、その表情はどこか複雑そうだった。

「ただ、少し気になることはあります」

「気になること?」

「蓮さんの昔のことです。私、まだ知らないことが多いので」

その言葉に、悠真さんの目がわずかに動いた。

「……昔のことですか」

「はい。子どもの頃のこととか、家族のこととか」

「なるほど」

悠真さんは蓮さんに視線を向けた。


蓮さんは何も言わず、静かに微笑んでいる。

「蓮は昔から、話したくないことは話さない奴です」

「悠真」

「でも、話すべきことまで隠すのは感心しませんね」

その言葉に、蓮さんは苦笑した。

「分かってるよ」

私は二人の会話を聞きながら、思った。


悠真さんは蓮さんのことをよく知っている。


だからこそ、私が知らない蓮さんの一面も見えているのだろう。

「美月さん」

悠真さんが、今度は私に向き直った。

「無理に全部知ろうとしなくてもいいと思います。ただ、自分が知りたいと思ったことは、遠慮せず聞いてください」

「はい」

「それに、あいつが何を言っても、自分の気持ちは大事にしてください」

「……ありがとうございます」

その言葉が、胸に残った。


帰り際、蓮さんが私の手を取る。

「悠真と仲良くなれたみたいだね」

「はい。優しい人ですね」

「俺の友人だからね」

「それは関係あるんですか?」

「あるよ」

蓮さんは楽しそうに笑った。


その笑顔を見ながら、私は思う。


蓮さんのことをもっと知りたい。


彼が過ごしてきた時間も、今の彼を作ったものも。


少しずつでいいから、知っていきたい。

< 104 / 179 >

この作品をシェア

pagetop