愛してるなんて、噓でしょう?

22話.蓮の過去

美月 side


「蓮さんって、子どもの頃はどんな子だったんですか?」

休日の午後。


二人でカフェにいたとき、私はふと思いついて尋ねた。

「子どもの頃?」

「はい。どんな遊びが好きだったとか、どんな性格だったとか」

蓮さんは少し考えるように視線を上げた。

「そうだなあ……あまり面白い子どもじゃなかったと思うよ」

「そんなことないと思います」

「どうして?」

「今の蓮さんを見ていると、きっと優しい子だったんだろうなって」

その言葉に、彼は少しだけ目を細めた。

「優しい、か」

「違うんですか?」

「昔は、そんなふうに言われたことなかったよ」

意外だった。


蓮さんはカップを置き、窓の外を眺めた。

「家のこともあって、子どもの頃から周りの大人に気を遣っていたんだ。何を言えばいいのか、どう振る舞えばいいのか。ずっと考えていた気がする」

「大変だったんですね」

「まあね。でも、それが当たり前だったから」

その言葉に、私は少し胸が痛くなった。

「寂しくなかったですか?」

何気なく尋ねたつもりだった。


けれど、蓮さんの表情が変わった。


ほんの一瞬。


懐かしいものを思い出したような顔。

「……寂しかったよ」

静かな声だった。

「でも、寂しいって言っても、どうにもならなかったから」

「蓮さん……」

「だから、平気なふりが上手になったんだと思う」

彼はいつものように笑った。


けれど、その笑顔が少しだけ寂しく見えた。

「今は?」

「今?」

「今も、寂しいって思うことはありますか?」

蓮さんは私を見つめた。


そして、ゆっくりと首を横に振る。

「今は、美月ちゃんに会えるから」

その言葉に、胸が大きく鳴った。

「そんなこと言われたら、困ります」

「どうして?」

「嬉しくなってしまうからです」

蓮さんは優しく笑った。

「嬉しくなってくれていいよ」

そのあと、彼は昔の話を少しだけ続けてくれた。


好きだった食べ物。


苦手だったこと。


誰にも言えなかった小さな夢。


どれも、私の知らない蓮さんだった。


もっと知りたい。


そう思うたびに、彼の過去には私の知らない空白があることを思い出す。


そして、その空白の向こうに、何か大切なものが隠されている気がした。

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