愛してるなんて、噓でしょう?

23話.あなたは何者?

美月 side


その日は、蓮さんと会う約束をしていた。


待ち合わせ場所に向かう途中、見知らぬ男性に声をかけられた。

「水瀬美月さん、ですか?」

「はい……?」

「少しお話を伺いたいのですが」

黒いスーツを着た男性。


東條会の関係者なのだろうか。


そう思った瞬間、少しだけ緊張した。

「東條さんの関係者の方ですか?」

「ええ。東條会に関わる者です」

やっぱり。

「蓮さんに用事があるんですか?」

「いえ、あなたにです」

その言葉に、胸がざわついた。

「私に?」

男性は周囲を気にするように視線を動かした。

「あなたは、東條さんとどのような関係なんですか」

「どのようなって……」

「若頭の隣にいる女性として、少し気になりまして」

私は言葉に詰まった。

「私と蓮さんは、親しくさせていただいています」

「そうですか」

男性は何かを考えるように目を細めた。

「東條さんには、昔から家同士で決められた付き合いというものがあります。あなたが知らないことも多いでしょう」

「それは……」

「余計なことに巻き込まれないほうがいい」

そう言い残し、男性は去っていった。


私はしばらくその場から動けなかった。


蓮さんには、私の知らない世界がある。


それは分かっていた。


でも、知らない人からそのことを突きつけられると、想像していた以上に不安になる。


そのとき、スマートフォンが震えた。

『美月ちゃん、もう着いた?』

蓮さんからのメッセージ。


私は少し迷ってから返信した。

『はい。今向かっています』

待ち合わせ場所に着くと、蓮さんが笑顔で手を振ってくれた。

「美月ちゃん」

その声を聞いただけで、少し安心する。

「どうしたの? 何かあった?」

「……蓮さん」

「うん?」

「蓮さんは、何者なんですか?」

彼の笑顔が止まった。

「どうして、そんなことを?」

「私の知らない蓮さんが、たくさんいるから」

言葉にすると、胸の奥が苦しくなった。

「東條会の若頭であることは知っています。でも、それ以外にも、私の知らないことがたくさんあるんですよね」

「美月ちゃん」

「莉子さんとの関係も、昔のことも……私は何も知らない」

蓮さんは静かに私を見つめた。

「俺は東條会の若頭だよ。それは変えられない」

「はい」

「でも、美月ちゃんの前にいるときは、ただの蓮でいたい」

その声は真剣だった。

「都合のいいことを言っているのは分かってる。でも、君には俺自身を見てほしい」

私は差し出された手を見つめた。


そして、ゆっくりとその手を取った。

「見たいです」

「え?」

「蓮さんのことを、もっと知りたいです」

彼の指が、私の手を優しく包み込む。

「ありがとう」

その笑顔を見て、私は思った。


この人を信じたい。


でも、信じるためには、知らなければならないことがある。

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