愛してるなんて、噓でしょう?
26話.触れてはいけない過去
美月 side
蓮さんの家から帰った翌日。
私は、いつもより早く目が覚めた。
昨日見た屋敷の景色が、頭から離れない。
広い庭。
静かな廊下。
蓮さんが昔使っていたという部屋。
そして、あの小さな木箱。
中身は見えなかったけれど、蓮さんにとって大切なものなのだと分かった。
『忘れたことはないよ』
昨日の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
蓮さんは、何を忘れていないのだろう。
私には、思い出せないことがある。
子どもの頃の記憶。
家族のこと。
昔住んでいた場所。
思い出そうとすると、頭の奥がぼんやりしてしまう。
それでも、時々、不思議な夢を見る。
小さな庭。
誰かの声。
そして、幼い男の子の後ろ姿。
その男の子は、いつも私に何かを言おうとしている。
でも、声が聞こえる前に目が覚めてしまう。
「……何なんだろう」
小さく呟いた。
その日の午後。
カフェに、莉子さんが訪れた。
「こんにちは」
「莉子さん……」
「お仕事中にごめんなさい。少し、お話しできるかしら」
私は休憩時間に話を聞くことにした。
「昨日、蓮の家に行ったそうですね」
「はい」
「どうでした?」
「素敵なお家でした」
莉子さんは少しだけ笑った。
「そうでしょうね。あの家には、昔からいろいろなものが残っていますから」
「いろいろなもの?」
「思い出も、秘密も」
その言葉に、私は莉子さんを見つめた。
「莉子さんは、十二年前のことを知っているんですよね?」
「ええ」
「私にも関係があるんですか?」
莉子さんはすぐには答えなかった。
そして、静かに言った。
「あなたのお父様のことを、覚えていますか?」
その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。
「……父?」
「十二年前、あなたのお父様は東條会と関わりがありました」
頭の中が真っ白になる。
父が、東條会と?
そんなこと、聞いたことがない。
「どうして……」
「詳しいことは私から話せません」
「でも、私の父は……」
言葉が続かない。
父のことは、覚えている。
優しかったこと。
一緒に過ごした時間。
けれど、ある時期から記憶が曖昧になっている。
「莉子さん。私の父は、今どこにいるんですか?」
莉子さんは目を伏せた。
「それは……私にも分かりません」
「どういうことですか?」
「ただ、十二年前に何かがあった。それだけは確かです」
私は何も言えなかった。
「美月さん」
莉子さんは、いつもより少し柔らかい声で言った。
「蓮を責めないであげてください」
「え?」
「彼にも、彼なりの事情があるんです」
その言葉が、余計に不安を大きくした。
「それは、蓮さんが何かを知っているということですか?」
莉子さんは答えなかった。
ただ、静かに立ち上がる。
「今日はこれで失礼します」
「待ってください」
私は彼女を呼び止めた。
「私、何を知らないんですか?」
莉子さんは振り返った。
そして、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「知らないままでいたほうが、幸せなこともあるのかもしれません」
その言葉を残して、彼女は店を出ていった。
私はしばらく、その場から動けなかった。
知らないままでいたほうが幸せ。
そんなことを言われても、もう何も知らないふりなんてできない。
蓮さんの家から帰った翌日。
私は、いつもより早く目が覚めた。
昨日見た屋敷の景色が、頭から離れない。
広い庭。
静かな廊下。
蓮さんが昔使っていたという部屋。
そして、あの小さな木箱。
中身は見えなかったけれど、蓮さんにとって大切なものなのだと分かった。
『忘れたことはないよ』
昨日の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
蓮さんは、何を忘れていないのだろう。
私には、思い出せないことがある。
子どもの頃の記憶。
家族のこと。
昔住んでいた場所。
思い出そうとすると、頭の奥がぼんやりしてしまう。
それでも、時々、不思議な夢を見る。
小さな庭。
誰かの声。
そして、幼い男の子の後ろ姿。
その男の子は、いつも私に何かを言おうとしている。
でも、声が聞こえる前に目が覚めてしまう。
「……何なんだろう」
小さく呟いた。
その日の午後。
カフェに、莉子さんが訪れた。
「こんにちは」
「莉子さん……」
「お仕事中にごめんなさい。少し、お話しできるかしら」
私は休憩時間に話を聞くことにした。
「昨日、蓮の家に行ったそうですね」
「はい」
「どうでした?」
「素敵なお家でした」
莉子さんは少しだけ笑った。
「そうでしょうね。あの家には、昔からいろいろなものが残っていますから」
「いろいろなもの?」
「思い出も、秘密も」
その言葉に、私は莉子さんを見つめた。
「莉子さんは、十二年前のことを知っているんですよね?」
「ええ」
「私にも関係があるんですか?」
莉子さんはすぐには答えなかった。
そして、静かに言った。
「あなたのお父様のことを、覚えていますか?」
その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。
「……父?」
「十二年前、あなたのお父様は東條会と関わりがありました」
頭の中が真っ白になる。
父が、東條会と?
そんなこと、聞いたことがない。
「どうして……」
「詳しいことは私から話せません」
「でも、私の父は……」
言葉が続かない。
父のことは、覚えている。
優しかったこと。
一緒に過ごした時間。
けれど、ある時期から記憶が曖昧になっている。
「莉子さん。私の父は、今どこにいるんですか?」
莉子さんは目を伏せた。
「それは……私にも分かりません」
「どういうことですか?」
「ただ、十二年前に何かがあった。それだけは確かです」
私は何も言えなかった。
「美月さん」
莉子さんは、いつもより少し柔らかい声で言った。
「蓮を責めないであげてください」
「え?」
「彼にも、彼なりの事情があるんです」
その言葉が、余計に不安を大きくした。
「それは、蓮さんが何かを知っているということですか?」
莉子さんは答えなかった。
ただ、静かに立ち上がる。
「今日はこれで失礼します」
「待ってください」
私は彼女を呼び止めた。
「私、何を知らないんですか?」
莉子さんは振り返った。
そして、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「知らないままでいたほうが、幸せなこともあるのかもしれません」
その言葉を残して、彼女は店を出ていった。
私はしばらく、その場から動けなかった。
知らないままでいたほうが幸せ。
そんなことを言われても、もう何も知らないふりなんてできない。