愛してるなんて、噓でしょう?

40話.十二年前の記憶

美月 side
星のチャームを見てから、頭の中にいくつもの景色が浮かぶようになった。


けれど、どれも曖昧だった。


知らないはずなのに、懐かしい。


思い出せそうなのに、思い出せない。


そんな感覚が続いていた。

「美月、少し休もうか」

蓮が温かい紅茶を置いてくれる。

「ありがとう」

私はカップを両手で包んだ。

「蓮さん」

「ん?」

「私たち、昔会っていたんだよね」

「ああ」

「何歳くらいのとき?」

「君が九歳で、俺が十二歳だった」

九歳。


十二歳。


その数字を頭の中で繰り返す。

「どこで会ったの?」

「東條会の人間が使っていた屋敷だよ。君のお父さんと、俺の父に関係があった」

「私のお父さんも、そこに来ていたの?」

「そうだ」

蓮は一度言葉を切った。

「君は、よく俺のところに来てくれた」

「私が?」

「ああ。俺が一人でいると、隣に座ってくれた」

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「何を話していたの?」

「たいしたことじゃないよ。学校のこととか、好きなお菓子のこととか」

「私らしいね」

「そうだな」

蓮は懐かしそうに笑った。

「君は、よく笑う子だった」

その言葉を聞いた瞬間、頭の中に小さな映像が浮かんだ。


広い部屋。


窓から差し込む夕方の光。


そして、ひとりで座っている男の子。


その隣に、女の子が近づいていく。

『お兄ちゃん、ひとりなの?』

幼い声。


それは、私の声だった。

「……あ」

思わず声が漏れる。

「美月?」

「今、思い出した気がする」

男の子の顔は、まだはっきりしない。


でも、あの部屋の雰囲気は覚えている。


あの静かな時間。


そして、誰かの寂しそうな横顔。

「私、蓮さんに会いに行っていたんだね」

「ああ」

蓮の声が、少しだけ震えたように聞こえた。

「何度も?」

「何度も」

「……そっか」

私は星のチャームを見つめた。

「私、どうして忘れちゃったんだろう」

蓮はすぐには答えなかった。

「君にも、俺にも、いろいろなことがあったんだ」

「お父さんのこと?」

「ああ」

「十二年前に何があったの?」

蓮は私を見つめた。


その瞳に、迷いが浮かぶ。

「まだ、全部は話せない。でも、いつか必ず話す」

「その『いつか』は、ちゃんと来る?」

「ああ。約束する」

私は小さく頷いた。


今度こそ、信じるだけではなく、自分の目で確かめたい。


私の過去を。


蓮の過去を。


そして、二人の間にあった時間を。

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