愛してるなんて、噓でしょう?
コーヒーを運び終えたあと。


私は少し迷ってから、彼のテーブルへ向かった。

「あの……」

「ん?」

「いつも来てくださって、ありがとうございます」

男性は少し驚いた顔をした。

「こちらこそ。いつも美月ちゃんがいるからね」

「え?」

「このお店、居心地がいいんだ」

そう言って、彼はコーヒーに口をつける。


……また、そういうことを言う。

「それなら、よかったです」

「うん」

少し沈黙が流れた。


でも、不思議と気まずくはない。


私は彼の向かい側にある椅子を見て、それからすぐに視線を戻した。

「……あの!」

「うん?」

「お名前、聞いてもいいですか?」

ずっと気になっていたこと。


彼は一瞬だけ目を丸くして、それから優しく笑った。

「俺?」

「はい。いつも来てくださるのに、お名前も知らないなって」

「そうだね」

彼は少しだけ身を乗り出した。

「東條蓮。蓮でいいよ」

「東條……蓮さん」

口に出してみる。


綺麗な名前だと思った。

「うん。美月ちゃんに呼んでもらえると嬉しいな」

「えっ……」

また、そんなことを言う。

「れ、蓮さん……?」

試しに呼んでみると、彼は満足そうに笑った。

「うん。ありがとう」

その笑顔を見て、私まで嬉しくなってしまった。

< 19 / 179 >

この作品をシェア

pagetop