愛してるなんて、噓でしょう?
それから少しして。


店内が混み始め、私は忙しく動き回っていた。


ようやく一息ついた頃、蓮さんが席を立った。

「あ、もうお帰りですか?」

「うん。今日はこのあと用事があってね」

「そうなんですね。ありがとうございました!」

「美月ちゃん」

「はい?」

「これ」

差し出されたのは、小さな紙袋だった。

「えっ? これは……?」

「差し入れ。みんなで食べて」

中を覗くと、可愛らしい焼き菓子が入っていた。

「こんなに!? いいんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます! 店長も喜びます!」

「それならよかった」

蓮さんは優しく笑った。


そのとき、私はふと気になったことを口にした。

「蓮さんって、いつもお忙しそうですよね」

「そう見える?」

「はい。なんだか、普通の会社員さんとは違う雰囲気があるというか……」

言ってから、少し失礼だったかもしれないと思った。


けれど蓮さんは怒ることなく、楽しそうに笑った。

「よく言われるよ」

「そうなんですか?」

「うん。ちょっと面倒な仕事をしてるんだ」

「面倒な仕事?」

「まあ、そんなところ」

それ以上、彼は何も言わなかった。


私も、それ以上は聞かなかった。


人には話したくないことだってある。


そう思ったから。

「じゃあ、またね」

「はい! またお待ちしてます」

蓮さんは店を出ていった。


私は紙袋を大切に抱えながら、その背中を見送った。


東條蓮さん。


初めて知った、彼の名前。


たったそれだけなのに、なんだか特別なものを知った気がした。

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