私を選ぶまで
私は可愛らしい笑みを作り、彼を見つめながら、目の前に立つのを待っていた。
すると、彼が袖を捲り上げたとき、片方の手首にバングルが見えた。
何の変哲もないものだと思ったけど、少し目を凝らすと、どこかで見た気がして、尋ねてみた。
「そのバングル、一点ものじゃないですか?」
そこで彼は洗い物に取り掛かり、私の方に目も向けず、呟くように言った。
「覚えてません」
言葉は湯川と同じで、声は平坦で相変わらずだった。
だけど、バングルについては私の一ヶ月の給料じゃ足りず、彼の懐事情がかなり豊富だと分かった。
ピアノも高価だし、店も持っていて、付き合うには最適な男だと思えた。
「彼女、気が強そうですけど、素敵な人ですね」
言葉の中に弱みを含ませてみると、彼は一瞬にして手を止めて、眉間に皺を寄せて言った。
「そうですね。お子様には分からないでしょうけど」
掛かったと思って、カウンターに手を置き、軽く組みながら、彼を見つめて言った。
「若いだけじゃないですよ、場数は踏んで来てるので……」
彼は眉を戻しながら、再び洗い物を始め、そのまま口を開いた。
「じゃあ、言葉を選ばなくてもいいですか」そう淡々と告げてきた。
「いいよ。でも、ここじゃないとこがいいな」と返しながら、思わせぶりに頬杖をついて眺めた。
「具体的に」彼は投げるように言うと、洗ったグラスやカップを、カウンターの上に置き始めた。
「二人になれる場所」囁くように告げ、軽く上目遣いで見つめた。
だけど、彼は淡々とカウンターの上にグラスとカップを並べ、それを終えてから丁寧に手を拭くと、袖を戻しながら言った。
「ねーちゃん、自信あるのはいいけど、誰も助けてくんなかったら、どーすんの」
その言葉に口を開きかけたものの、返すことが浮かばずに、すぐ閉じると、彼が珈琲を淹れ始めた。
棚からカップを取って用意し、静かに注ぐと、左手でカップを持ち、口に含んだ。
飲み込んだあとで、軽く視線を上げたまま、口を開いた。
「俺、嫁さんと犬が居て、死ぬほど幸せだから、通っても何も出てこねーぞ」
さっきとは違う口調で、中身が強調されて聞こえ、泣きそうになった。
欲しくて手に入れようとした対象は揺るがないもので、入り込む隙なんて、どこにもなかったと、ようやく気付いた。
すると、彼が袖を捲り上げたとき、片方の手首にバングルが見えた。
何の変哲もないものだと思ったけど、少し目を凝らすと、どこかで見た気がして、尋ねてみた。
「そのバングル、一点ものじゃないですか?」
そこで彼は洗い物に取り掛かり、私の方に目も向けず、呟くように言った。
「覚えてません」
言葉は湯川と同じで、声は平坦で相変わらずだった。
だけど、バングルについては私の一ヶ月の給料じゃ足りず、彼の懐事情がかなり豊富だと分かった。
ピアノも高価だし、店も持っていて、付き合うには最適な男だと思えた。
「彼女、気が強そうですけど、素敵な人ですね」
言葉の中に弱みを含ませてみると、彼は一瞬にして手を止めて、眉間に皺を寄せて言った。
「そうですね。お子様には分からないでしょうけど」
掛かったと思って、カウンターに手を置き、軽く組みながら、彼を見つめて言った。
「若いだけじゃないですよ、場数は踏んで来てるので……」
彼は眉を戻しながら、再び洗い物を始め、そのまま口を開いた。
「じゃあ、言葉を選ばなくてもいいですか」そう淡々と告げてきた。
「いいよ。でも、ここじゃないとこがいいな」と返しながら、思わせぶりに頬杖をついて眺めた。
「具体的に」彼は投げるように言うと、洗ったグラスやカップを、カウンターの上に置き始めた。
「二人になれる場所」囁くように告げ、軽く上目遣いで見つめた。
だけど、彼は淡々とカウンターの上にグラスとカップを並べ、それを終えてから丁寧に手を拭くと、袖を戻しながら言った。
「ねーちゃん、自信あるのはいいけど、誰も助けてくんなかったら、どーすんの」
その言葉に口を開きかけたものの、返すことが浮かばずに、すぐ閉じると、彼が珈琲を淹れ始めた。
棚からカップを取って用意し、静かに注ぐと、左手でカップを持ち、口に含んだ。
飲み込んだあとで、軽く視線を上げたまま、口を開いた。
「俺、嫁さんと犬が居て、死ぬほど幸せだから、通っても何も出てこねーぞ」
さっきとは違う口調で、中身が強調されて聞こえ、泣きそうになった。
欲しくて手に入れようとした対象は揺るがないもので、入り込む隙なんて、どこにもなかったと、ようやく気付いた。