私を選ぶまで
何気なく彼と話す機会を窺ったけど、志央が居るせいで隙を狙えず、その日は早々に切り上げた。
翌日は可愛い服を着てから、ラベンダーの香水を付け、十時を目指して店に向かった。
ドアを開けてみると、付近の席を片付けていた志央が、私の方を向いて言った。
「いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ」
そこでカウンターを見ると、彼の姿は見当たらず、辺りを探っても気配はなさそうだった。
すると、背後から風が吹いてきて、志央の声が聞こえてきた。
「済みませんが、換気したいので、ドア開けておきますね」
私が頷いて見せると、志央は軽く笑みを作り、カウンターに向かい始めた。慣れた素振りを目で追いながら、カウンターの席へ腰掛け、注文を告げた。
「カフェオレで」
「かしこまりました。お待ちください」
すかさず志央は道具を揃えると、丁寧に作り始めた。棚からカップを取り出し、静かにカップへ注いでから、私の手元に近い場所へ置いた。その左手の薬指には真新しい指輪が見え、彼と同じもののような気がした。
まさかとは思いながら、よく見てみると、志央は白い生地のアノラックを着ていて、袖を捲っていた。
それは、どう考えても従兄妹ではなく、恋人同士で服を交換しているとしか思えなかった。
ふと息を吐いてから、カップを口に運び、彼女の動向を探り始めた。だけど、彼女はカウンターの中で、本を読んだまま、口を結んでいた。
その様子は大人しいというより、人に無関心なように感じ、彼が去っても何も言わず、気にも掛けないと思えた。
そんなことを考えていると、背後から声が聞こえてきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
軽く振り向く間もなく、彼が彼女の傍まで来ると、少し口角を上げ、優しげな目で見つめながら言った。
「ありがとう、お嬢さん」
「どういたしまして。小豆は?」
穏やかな口調に堅く返す様子から、付き合いの浅さが見て取れた。
そこから二人の会話が始まり、私はカップを口にしながら、ただ様子を窺っていた。
「至って健康だけど、オヤツあげすぎんなって言われた」
「それはそう。反省してください」
彼女は毅然としたままで、彼は軽く眉を顰めると、マウンテンパーカーのポケットから煙草を手に取り、彼女に差し出して言った。
「済みません。一時間禁煙します……ていうか、小豆、ちょい傷心してるみてーだから、傍に居てやったほうがいい」
「わかりました。おつかれさまでした」
彼女は変わらないまま煙草を受け取り、カウンターから出ると、彼が「ごくろーさん」と言って、じっと見つめていた。
翌日は可愛い服を着てから、ラベンダーの香水を付け、十時を目指して店に向かった。
ドアを開けてみると、付近の席を片付けていた志央が、私の方を向いて言った。
「いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ」
そこでカウンターを見ると、彼の姿は見当たらず、辺りを探っても気配はなさそうだった。
すると、背後から風が吹いてきて、志央の声が聞こえてきた。
「済みませんが、換気したいので、ドア開けておきますね」
私が頷いて見せると、志央は軽く笑みを作り、カウンターに向かい始めた。慣れた素振りを目で追いながら、カウンターの席へ腰掛け、注文を告げた。
「カフェオレで」
「かしこまりました。お待ちください」
すかさず志央は道具を揃えると、丁寧に作り始めた。棚からカップを取り出し、静かにカップへ注いでから、私の手元に近い場所へ置いた。その左手の薬指には真新しい指輪が見え、彼と同じもののような気がした。
まさかとは思いながら、よく見てみると、志央は白い生地のアノラックを着ていて、袖を捲っていた。
それは、どう考えても従兄妹ではなく、恋人同士で服を交換しているとしか思えなかった。
ふと息を吐いてから、カップを口に運び、彼女の動向を探り始めた。だけど、彼女はカウンターの中で、本を読んだまま、口を結んでいた。
その様子は大人しいというより、人に無関心なように感じ、彼が去っても何も言わず、気にも掛けないと思えた。
そんなことを考えていると、背後から声が聞こえてきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
軽く振り向く間もなく、彼が彼女の傍まで来ると、少し口角を上げ、優しげな目で見つめながら言った。
「ありがとう、お嬢さん」
「どういたしまして。小豆は?」
穏やかな口調に堅く返す様子から、付き合いの浅さが見て取れた。
そこから二人の会話が始まり、私はカップを口にしながら、ただ様子を窺っていた。
「至って健康だけど、オヤツあげすぎんなって言われた」
「それはそう。反省してください」
彼女は毅然としたままで、彼は軽く眉を顰めると、マウンテンパーカーのポケットから煙草を手に取り、彼女に差し出して言った。
「済みません。一時間禁煙します……ていうか、小豆、ちょい傷心してるみてーだから、傍に居てやったほうがいい」
「わかりました。おつかれさまでした」
彼女は変わらないまま煙草を受け取り、カウンターから出ると、彼が「ごくろーさん」と言って、じっと見つめていた。