私を選ぶまで
 それから家に帰っても落ち着かず、携帯で適当な男を探し、繁華街で待ち合わせして、施設で抱いて貰った。

 男はおざなりのキスを中途半端な愛で濁し、身体に触れるのもそこそこにして、欲求のままに押し付けていた。

 果てたあとは何事もなかったように服を着て、財布を手にすると、中身を確認する素振りをしながら、私に向かって言った。

「金下ろしてくんの忘れた。払っといて。帰るわ」

「へたくそが……」そう呟いてみても、男が戻ることはなく、部屋の扉が閉まる音が微かに聞こえた。

 ただ行為をするだけの部屋には丸まったティッシュと、脱がされて投げられた服が散らばっていて、ベッドの上には私だけが裸のまま残されていた。

 作られた顔と身体を差し出したところで、消費されていたことに気づくと、選り取りの女を繕っていたのが急に可笑しくなり、途端に虚しくなった。

 そこで振り返ると、思い出すのは彼のことばかりで、手に入れられない悔しさよりも、傍に居られるほうを強請っていた。

 彼女は私と変わらないどころか、本を読んでる時は彼すら視界に入れず、口を開けば気が強くて言葉も堅い。会話も少なくて、声を掛けることさえ、彼から聞きかじったものが多かった。

 だけど、彼が彼女を呼ぶ声は優しく、口調も穏やかで、何もかもが彼女だけに向いていることを思い出していた。

 それは『狙った男に彼女が居た』という短絡的なものではなく、最初から敵わぬ恋だったと知った。

 途端に涙が溢れ出してきて、止めどなく流れていった。

 時が経てば忘れるなんて、誰が言ったのか問い正したくなっても、高校の時の嫌な経験が浮かんできて、大学に入ってから上手く渡り歩いていたつもりが、適当な男と遊んだことで、違うことに気づいてしまった。

 深い息を吐いてから、散らばった服をかき集め、服を着た後で施設を抜け出した。

 家に帰って部屋に着くなり、クローゼットから男の好みの服を取り出し、ゴミ袋に押し込んだ。

 すると、モノクロの服だけが残り、クローゼットを閉めてから、違うゴミ袋を持ち出し、ドレッサーに並べた使いかけの香水を中に投げ入れた。

 ついでと言わんばかりに使わない化粧品も投げ入れ、持ち手を縛ったところで、鏡に映る顔と視線がぶつかった。

 作り物ではあるけど、形はそのままで、眉毛や睫毛に面影が残って見えた。

 ドレッサーの引き出しから、おもむろに鋏を手にして、可愛らしく巻いた髪を一束持ち、首元から切った。

 その瞬間に冷たい空気が触れ、乱雑になった毛先が、今の自分を現しているように思えた。
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