私を選ぶまで
 次の日は美容室に行き、思い切って髪をショートにしてもらった。軽くなった頭を見ると、次第に気持ちも追いついてきて、心が晴れていくような気がした。

 職場のカウンターに着くと、美智が駆け足で近づいてきて、隣に立ってから声を掛けてきた。

「おっはー。てか、どうしたその髪」
 
 明るい口調で言うと、カウンター回りを片付けながら、私のほうを見つめた。

「切っただけ」そう返すと、美智が「ついに男を決めたか」と気取ったように言い、背伸びをしてから、再び口を開いた。

「まぁ、潮時ってことだね」そう言って美智は笑い、軽く姿勢を正して、前を向いた。

 そこで私は同じように目を向け、先のことを考えていた。

 大学は卒業を控えていて、今のバイト先にそのまま就職することを考えてみても、続けられないように思えた。

 だけど、就職活動はまともにしてないし、受けた会社も給料面ばかりを気にしていた。

 自分が何をしたいのかよく分からなくなり、ふと高校時代に勝手に決められた図書委員のことを思い出した。

 クラスで一番背が高くて、地味で眼鏡を掛けた男子と一緒に組まされ、互いに押し付けられた役目だと気づいたものの、そこには敢えて触れないように声を掛けた。

『小山湖依里です、よろしく』と細々と言うと、男子は『楠木幸弥、よろしく』と聞き取りづらいほど小さな声で言った。

 背は高いのに、どう見てもひ弱そうで、本を運ぶのも苦労しそうだった。

 図書室で作業をしていても言葉数は少なかったけど、私が手の届かない場所は率先して片付けてくれた。

 本を運んでる時も、さりげなく傍に来て、何冊か持っていき、私が並べてる間に作業を終えていた。

 そんな日々を過ごしていると、卒業間近に楠木が私に声を掛けてきた。

『小山さんは卒業したら大学行くの?』

『そうだけど、楠木くんは就職?』

 互いに尋ね合ったところで、軽く笑みを浮かべ、頬が熱くなるのを感じた。

 すると、楠木は戸惑うように一度口を開いてから閉じ、再び口を開いた。

『湖依里って、可愛い名前だし……周りのことは気にしないほうがいいと思う』

 その言葉を聞いたとき、一瞬だけ決めていたことに迷いが生じた。

『楠木くんは背が高いし、コンタクトにしたらいいと思う……』

 それでも、生まれ持ったものを活かさないことを言い返し、自分が無い物ねだりをしていることに、今更になって気づき始めていた。
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