私を選ぶまで
 彼は妹の席へカップを静かに置き、煙草を取り出してくわえ、火を点けてから、隣の席へ腰掛けた。

 軽く吸い込むと、煙を下に向けて吐き流し、妹が読んでいる本を覗き込んで、何かと話し掛けているようだった。

 だけど、妹は彼のことも気にせず、本を読みながらカップを口に運んでいた。

 彼の過干渉気味な様子からも、関係性は兄妹にしか見えなかった。

 彼女なら会話を交わすのが普通だし、互いに視線を合わせるのが自然だと思った。

 そこで、私は二人の間に入るよりも、目の前に居るユカに話し掛けたほうが得策だと切り替えた。

 飲みかけのカップを脇にずらし、軽く手を組んでから、ユカに向かって尋ねてみた。

「お酒を飲みたいんですけど、お勧め、貰えませんか?」

 すると、ユカは脇に置かれたカップと私を交互に一瞥したあとで、カップを手にしながら、「少々お待ちください」と柔らかに告げ、酒作りに取り掛かった。

 その手さばきは慣れているというよりも、完全に身についているようで、彼と知り合った経緯を何となく察した。

 彼の交友関係について細かく聞くことはしないけど、身なりから見れば遊んでいるのは分かるし、女の存在を探れそうな気がした。

 そんなことを考えていると、カウンターにグラスが置かれ、中身が珈琲牛乳の色をしていた。

 嫌な予感を浮かべながら、グラスを口に運ぶと、思った通りの味がして、そのままグラスを置いた。

「お口に合わなかったかしら?」とユカは軽く笑みを浮かべ、続けて「ごめんなさいね。この店には若い女の子は余り来なくって、好みが分からないの」と眉尻を下げながら言った。

「そうなんですね。ここは長いんですか?」

 飲み物のことには触れずに尋ねると、背後のほうで人が近づいてきて、「湯川」と低い声を掛けてきた。

 すかさずユカが目を向けると、彼が私の傍に立って言った。

「志央送ってから、また来るけど、あと頼むな」

「りょ。小豆ちゃんは任せて」ユカが言うと、彼は踵を返し、立ち去って行った。

 止める隙はあったけど、妹が居ないほうが話す機会も増えると思い、しばらくユカと会話を広げようと考えた。
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