私を選ぶまで
 ユカはカウンターから出てくると、端に括り付けられた紐を取り、犬を優しく抱え上げ、四人掛けの席から一つを引き、静かに腰掛けて言った。

「大学生ってところかしら?こんな時間まで出歩いたら、親御さん心配するわよ」

「一人暮らしなんで文句は言われません。それに明日は休みなんで」

 軽く答えながら、ポケットの中の携帯を取り出し、時間を確認していると、ユカが「そう」とだけ言い、膝の上に犬を乗せて撫で始めた。

 その様子を見たあとで、携帯をポケットに戻し、店のことから探りを入れることにした。

「古河さんの店は若い人が少ないんですか?」

 そう尋ねてみると、ユカは犬を撫でたまま、口を開いた。

「数えたことないわ。他の店と比べたこともないもの」

 話の内容を頭の中で噛み砕くと、ユカは店に来て間もないと察した。

 彼と仲良さげには見えるけど、親交の深さまでは分からず、少し掘り下げみようと、尋ねてみた。

「お二人で回すの大変じゃないですか?」

 すると、ユカが私に目を向け、軽く眺めてから、犬のほうへ戻して言った。

「そうね。そんな時もあるけど、バイトを入れるよりマシだと思ってるわ」

 ユカの言葉には牽制が含まれていたものの、私が思っていたものとは違う答えで、一息吐いてから、口を開いた。

「湯川さんも丁寧ですけど、古河さんは紳士的だから、経験の浅い若い人には向かないんでしょうね」

 そこで、湯川は手を止めると、犬の背に添えるように置いて言った。

「貴女も十分若いのに、何が言いたいのかしら?」

 すかさず私が口を開こうとすると、湯川は視線を向けて続けた。

「ごめんなさい。独り言よ。でも、また話したいなら、日を改めたほうがいいと思うわ」

 湯川はそう言って、静かに息を吐き出し、軽く口を結んだ。

 これ以上続けても返ることはないと思い、湯川が居なさそうな時間を狙って来ようと考えた。

 ゆっくりと酒を口に含みながら、ポケットから携帯を取り出し、彼が戻って来そうな時間を見計らった。

 妹と店を出たのは三十分くらい前で、家が近所でも一時間は掛かると見てから、ポケットへ携帯を戻した。

 そこから酒を少しずつ飲み進めると、口の中で甘さが舌先に滞り、嫌な顔を浮かべていた。

 ようやく半分を飲んだところで、また携帯を取り出し、一時間半が過ぎていることから、彼が戻って来ると予測を立て、湯川に向かって言った。

「お会計お願いします」

「あら、そう。では、千三百円になります」

 言われた通りに支払い、すぐに店を抜け出して、脇の方へ隠れるように、彼が戻って来るのを待った。
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