私を選ぶまで
 店に着いてから、ドアを開けると、彼は私を軽く見たあとで言った。

「いらっしゃい。空いてる席へどうぞ」

 大人の雰囲気はないと読み、少し可愛い女に切り替え、カウンター席に座り、声を掛けてみた。

「カフェオレありますか?」

「少々お待ちください」

 相変わらず淡々とした口調だけど、何となく明るい表情に見え、そのまま機会を見計らった。

 すると、背後から風が吹いてきて、少し間を置いて声が聞こえてきた。

「……古河さん、ドア開けたままでもいいですか?」

「ん? ……俺はいいけど、寒いから、奥の席に行って」

 妹の言葉に彼は素早く答え、カウンターにカップを置きながら言った。

「空気の入れ替えなので、すみません」
 
 相変わらず私には目も向けず、妹ばかりを見ていて、手元ではミルクを温めていた。

 それを見ているうちに、どこか引っ掛かるものを感じ、彼の動向や言葉を思い浮かべた。

 店に着いてから、彼は昨日と同じ対応で、口調も変わらないのに、表情は明るく見えていた。

 そこで、彼がカップを手にすると、すぐさまカウンターから出て、妹の席に向かった。その席は昨日と同じで、彼はカップを静かに置いてから、隣に腰掛けた。

 すかさず私は左端の席に移動し、腰掛けながら二人の会話に聞き耳を立てた。

「なんだよ、古河さんって」

 呆れたような声が聞こえたかと思うと、すぐに妹が「癖、的な」と返して、彼の様子を窺っているようだった。

 短い会話から察するに、二人は兄妹ではないと思い、再び聞き耳を立てると、息を吐き出す音が聞こえ、微かに煙草の匂いが漂ってきた。

「困ったお嬢さんだ」

 言葉は呆れていても声は穏やかで、優しく語り掛けているように感じた。

 それで私は二人が親交の深くない従兄妹のような関係だと思った。

 そのまま様子を窺っていると、彼が「志央」と呼び掛け、志央は「なんですか」と気のない返事をし、彼は軽く息を吐いてから、声を潜めるように志央に話し掛けた。

「そろそろ爺のとこ行く?」

「……いいの?」

 志央の声も潜み、二人の会話を聞き取ろうと、少し背を反らして耳を傾けた。

「いいっていうか、うっせーんだよ、クソじじいが」

「そういうこと言わないで。でも……待ってるなら、一度だけ、的な」

 口ごもる言い方に嫌な顔を浮かべていると、煙草の匂いと共に彼の声が聞こえてきた。

「それはそう。済みません。じゃあ、爺にいつがいいか聞いとく」

 彼が言うと、布擦れの音がして、席を立つのが分かった。それと同時に私は元居た席へ座り直した。
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