崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

帝国の策略

 ふうっとため息を吐き出し、ミランダが思い出すのは二年前に別れたシリルのこと。

 かつては小さかった彼も今は、二十歳になっているはずだ。四年間そばを離れていた母である女王に親孝行するためにも、彼は王族として軍の指揮を執ったり各地方に出向いたりと、勢力的に働いているという。

(帝国軍の狙いは、王国の領土。だとすると、王都で守られる女王陛下より、城を離れることの多い殿下が狙われるかも……)

 それは、帝国が王国に対する開戦宣告を行ったときから、ミランダが危惧していたことだ。
 現在のリドベキア王家の者は少なく、女王とシリルの他には女性か高齢者か幼児しかいないそうだ。次期国王であるシリルは王国にとっての希望の光だが、同時に急所でもある。

(シリル殿下をお守りして、王国の侵略を防ぎたい。でも……私には、なにもできない)

 ただでさえ帝国魔術師団はガタガタで、ほとんどの権利を没収されている。せっかく帝国は他の国に比べて魔術師の誕生率が高くて養成機関も充実していたのに、皇帝の悪策のせいで魔術師たちは迫害され、使い捨てられている。

(私が下手に動けば、魔道学院にも累が及ぶ。それだけは……してはならない)

 右にも左にも曲がれず、前に進むしかない。
 それも、血と泥で汚れた誤った道を。

 ミランダは重い足取りで書庫に向かったが……ふと、中から声が聞こえた。

(先客かしら?)

 試しに書庫のドアを押してみたが、開かない。鍵がかかっているようだ。

(ここは、夜中でなければいつでも開いているのに……)

 重要書類のある書庫の奥はともかく、誰でも閲覧可能な書籍が収められた場所は、早朝に鍵を開けて夜に施錠するまでの間は出入り自由になっているはずだ。

 ミランダは少し考え込み……念のために、中を調べることにした。
 調べるといっても、難しいことはない。魔術を、使えば。
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