崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~

決死の救助

 夜、ミランダの姿は帝城内の薬品庫にあった。

(解毒剤……これかしら)

 魔法で外から侵入したミランダは手のひらに灯した灯りで室内を照らしながら、薬の瓶を一つ一つ確認していく。魔道学院の教養科目に薬品学があり、薬のラベルの見方などに関する最低限の知識があって、本当によかった。

 解毒剤は複数種類あるが、たいていの毒薬は解毒剤とセットになっている。宰相と話していた者が、「既に毒薬は送っている」と言っていたから、毒薬の中である程度中身が減っているものに目星をつければ、だいたいの種類は定められる。

 幸い、解毒薬は複数種類を混ぜて飲んでも問題ないものがほとんどだ。だからミランダはいくつかの解毒剤に狙いを定めて少量ずつ手持ちの瓶に移し、ラベルに書かれている内容をざっとメモしてから鞄に入れた。

 薬品庫を窓から出ると、ふわりと夜の風が吹いてきた。今のミランダは、黒い衣装を着ている。夜の間中飛べば、シリルがいる駐屯地に朝までには到着するはず。

(でも既に、毒のほうが先に出発している。全力で飛んでも、交戦まで間に合わないかも……)

 王国軍と帝国軍の衝突までに到着してシリルに危険を促すのが一番だが、間に合わないかもしれない。
 そのために解毒剤をくすねたのだが、到着があまりにも遅れると毒が回って手遅れになるかもしれない。

(シリル殿下……!)

 ミランダは薬品庫の窓を閉め、桟をたんっと蹴って宙に飛び上がった。そのまま魔術を展開するとミランダの体が一度光り、そして夜の闇に溶け込みながらすうっと空を飛んでいく。

 体に守護の魔術をかけているので、猛スピードで空を飛んでも髪が乱れたり呼吸が苦しくなったりはしない。だが、間に合うか間に合わないかの緊張と不安で、心臓はばくばく鳴っているし汗もひどい。

(無事にシリル殿下を助けられても、帰ってきた私はきっと罰を受ける……)

 駐屯地までどれほど急いでも、往復で半日はかかる。さらにシリルに状況説明をしたり場合によっては手当てをしたりしていれば、もっと時間がかかる。

 帝城内で軽んじられるミランダだが、仕事が与えられたときに城にいなかったらさすがにばれてしまう。今すぐに魔道学院が標的になることはないだろうが、ミランダに厳しい処分が下るのは覚悟しなければならない。

 でも、それでも。

『ミランダ。一度でいいから、僕のことを名前で呼んで』

「……必ずお助けします、殿下……!」

 夜の闇を飛びながら、ミランダはかわいがっていた王子のことを思っていた。
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