崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
(……いた!)
うなだれるような格好でゆっくり移動する人間の姿が察知でき、ミランダはすぐさまそちらに飛んだ。
シリルの負傷箇所は、右肩。だとしたら傷を受けた箇所を庇うように、前傾姿勢になるはず。
ミランダは姿を消したまま森の中を飛び、途中すれ違った王国軍に一瞥をくれつつ――そしてとうとう、大きな木の幹に隠れるようにして座り込むシリルを発見した。
「殿下!」
思わず声を上げ、彼のもとに降り立った。シリルはもう動けなくなったのだろう、正面から受けた矢をそのまま肩に残し、ひどい汗を流し目を硬くつむっていた。ミランダの呼びかけも届いていないようで、浅い呼吸を繰り返している。
(まだ……生きている。でも毒は、どんどん回っているはず……)
「殿下、今お助けします!」
ミランダは鞄を足下に置き、薬品庫からくすねた解毒剤の瓶を次々に手に取った。指先が震えそうになりながらも蓋を開けていき、シリルの口に流し込む。
げほっ、とむせた唾液には、血が混じっている。
ミランダは持っていた薬を全部飲ませ、顎の下をぐりぐりと押さえて唾液の分泌と嚥下を促し、それから肩に刺さったままの矢を見やった。
(矢を取り除いて傷口を塞ぎたいけれど、今すぐ治癒魔術を施すわけにはいかない……)
ミランダは様々な魔術を広く扱えるので、負傷者の傷口の修復をする治癒魔術も得意だ。
だがこの魔術は毒に対する治療との相性が悪く、毒が完全に消えてから治癒しないと塞がった皮膚の下で毒を増殖させてしまう。
(解毒剤は飲ませたから、ひとまずどこか安全な場所に移動させたいわ……)
まだシリルの呼吸は荒いし、意識も戻っていないようだ。今の状態で王国軍にパスしても、彼らでは治療が間に合わないだろう。シリルが昔言っていたように、リドベキア王国は魔術師が生まれにくく、王国軍にも魔術師はほとんど在籍していないのだから。
ミランダはひとまず魔術でシリルの体を浮かせて、彼を伴って森の中を飛んだ。帝国軍にも王国軍にも気づかれるわけにはいかないので、それらの気配を避けながら森の中を進み――やがて、小さな小屋を見つけた。旅人のために用意されている、避難小屋だろう。
(ここを使わせてもらおう)
ミランダは小屋に結界魔術をかけてから一度中に入り、中に他の人や危険物がないのを確認してシリルを連れて入った。
室内には簡素なベッドがある程度だが、棚を開けるとシーツやタオルなどがあった。少し汚れが気になるが、シリルの看病をすることならできそうだ。
ベッドにシリルを移動させ、まずは彼の顔をタオルで拭う。
「ごめんなさい。服、脱がせるわ」
おそらく本人の耳には届いていないだろうが一応詫びてから、彼の防具を外して服も脱がせた。ガシャガシャと重い鎧やごつい服を着たままだと、体を拭いてあげることもできない。
リドベキア王国で着用される鎧は少し脱がし方が難しかったので、最後には魔術であちこちを壊しながら脱がした。その下に着ている服もなるべく破かないようにしたかったが、矢を食らった肩の周りはさすがに切らないといけなかった。
……ズボンを脱がせるときにはさしものミランダにも羞恥が芽生えたが、とやかく言っている場合ではない。
(ごめんなさい、シリル殿下。ふしだらなことは絶対にしませんので!)
心の中で謝りながらシリルの服を脱がし、水の魔術で濡らしたタオルで体を拭く。
そうして彼の鍛えられた体に触れて魔力を流し込み、体の毒が消えているのを確認すると安堵でその場に座り込みそうになった。
(解毒が間に合ったわ! あとは傷の手当てをして……)
毒が消えたのだから、心置きなく治癒魔術を使える。
ミランダはシリルの右肩に刺さった矢に手をかけ、心を鬼にしてそれを引き抜いた。皮膚が裂けて血が噴き出るがすぐさま治癒魔術をかけ、矢で傷つけられた皮膚を癒やしていく。
毒は消えて傷も塞がったが、シリルはまだ目を覚まさない。それどころか体が熱を持ち始めて汗が噴き出し、呼吸が苦しそうになる。
(命の危険は、去ったはず。あとはこの熱に耐えるだけよ……!)
「殿下、頑張って。死んではだめよ!」
おそらく聞こえていないだろうがシリルに呼びかけ、ミランダは彼の汗を塗らしたタオルで拭い、唇を湿らせて少しでも水分を取らせようとした。鞄の中に入れていた携帯非常食のクッキーを水でふやかしてどろどろの液状にして、彼の口に流し込む。
ミランダの看病は、何時間も続いた。
うなだれるような格好でゆっくり移動する人間の姿が察知でき、ミランダはすぐさまそちらに飛んだ。
シリルの負傷箇所は、右肩。だとしたら傷を受けた箇所を庇うように、前傾姿勢になるはず。
ミランダは姿を消したまま森の中を飛び、途中すれ違った王国軍に一瞥をくれつつ――そしてとうとう、大きな木の幹に隠れるようにして座り込むシリルを発見した。
「殿下!」
思わず声を上げ、彼のもとに降り立った。シリルはもう動けなくなったのだろう、正面から受けた矢をそのまま肩に残し、ひどい汗を流し目を硬くつむっていた。ミランダの呼びかけも届いていないようで、浅い呼吸を繰り返している。
(まだ……生きている。でも毒は、どんどん回っているはず……)
「殿下、今お助けします!」
ミランダは鞄を足下に置き、薬品庫からくすねた解毒剤の瓶を次々に手に取った。指先が震えそうになりながらも蓋を開けていき、シリルの口に流し込む。
げほっ、とむせた唾液には、血が混じっている。
ミランダは持っていた薬を全部飲ませ、顎の下をぐりぐりと押さえて唾液の分泌と嚥下を促し、それから肩に刺さったままの矢を見やった。
(矢を取り除いて傷口を塞ぎたいけれど、今すぐ治癒魔術を施すわけにはいかない……)
ミランダは様々な魔術を広く扱えるので、負傷者の傷口の修復をする治癒魔術も得意だ。
だがこの魔術は毒に対する治療との相性が悪く、毒が完全に消えてから治癒しないと塞がった皮膚の下で毒を増殖させてしまう。
(解毒剤は飲ませたから、ひとまずどこか安全な場所に移動させたいわ……)
まだシリルの呼吸は荒いし、意識も戻っていないようだ。今の状態で王国軍にパスしても、彼らでは治療が間に合わないだろう。シリルが昔言っていたように、リドベキア王国は魔術師が生まれにくく、王国軍にも魔術師はほとんど在籍していないのだから。
ミランダはひとまず魔術でシリルの体を浮かせて、彼を伴って森の中を飛んだ。帝国軍にも王国軍にも気づかれるわけにはいかないので、それらの気配を避けながら森の中を進み――やがて、小さな小屋を見つけた。旅人のために用意されている、避難小屋だろう。
(ここを使わせてもらおう)
ミランダは小屋に結界魔術をかけてから一度中に入り、中に他の人や危険物がないのを確認してシリルを連れて入った。
室内には簡素なベッドがある程度だが、棚を開けるとシーツやタオルなどがあった。少し汚れが気になるが、シリルの看病をすることならできそうだ。
ベッドにシリルを移動させ、まずは彼の顔をタオルで拭う。
「ごめんなさい。服、脱がせるわ」
おそらく本人の耳には届いていないだろうが一応詫びてから、彼の防具を外して服も脱がせた。ガシャガシャと重い鎧やごつい服を着たままだと、体を拭いてあげることもできない。
リドベキア王国で着用される鎧は少し脱がし方が難しかったので、最後には魔術であちこちを壊しながら脱がした。その下に着ている服もなるべく破かないようにしたかったが、矢を食らった肩の周りはさすがに切らないといけなかった。
……ズボンを脱がせるときにはさしものミランダにも羞恥が芽生えたが、とやかく言っている場合ではない。
(ごめんなさい、シリル殿下。ふしだらなことは絶対にしませんので!)
心の中で謝りながらシリルの服を脱がし、水の魔術で濡らしたタオルで体を拭く。
そうして彼の鍛えられた体に触れて魔力を流し込み、体の毒が消えているのを確認すると安堵でその場に座り込みそうになった。
(解毒が間に合ったわ! あとは傷の手当てをして……)
毒が消えたのだから、心置きなく治癒魔術を使える。
ミランダはシリルの右肩に刺さった矢に手をかけ、心を鬼にしてそれを引き抜いた。皮膚が裂けて血が噴き出るがすぐさま治癒魔術をかけ、矢で傷つけられた皮膚を癒やしていく。
毒は消えて傷も塞がったが、シリルはまだ目を覚まさない。それどころか体が熱を持ち始めて汗が噴き出し、呼吸が苦しそうになる。
(命の危険は、去ったはず。あとはこの熱に耐えるだけよ……!)
「殿下、頑張って。死んではだめよ!」
おそらく聞こえていないだろうがシリルに呼びかけ、ミランダは彼の汗を塗らしたタオルで拭い、唇を湿らせて少しでも水分を取らせようとした。鞄の中に入れていた携帯非常食のクッキーを水でふやかしてどろどろの液状にして、彼の口に流し込む。
ミランダの看病は、何時間も続いた。