崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
「……だとしたら、ますますいただけない。ミランダ、君はもっと自分の体を大切にしなければならないだろう」
「で、ですが、そうでもしないと城の皆が犠牲になると思って……」
「……確かにあのときの王国軍は、殺気立っていた。でも、他にも打開策はあっただろう?」
「……。……妊娠がわかったのが、当日の朝だったので」
「……そうか。……すまない」
シリルはそこではっとした様子で、謝罪した。
「僕は、女性の体のことなんてなにもわからないのに、偉そうなことを言ってしまった。失言を許してほしい、ミランダ」
「いいえ、お気になさらず。……それで、殿下。殿下方はこのまま、帝都に進軍されるのですか?」
もうこの話はおしまいにしてもらおうと思ってミランダが切り出すと、シリルはうなずいた。
「ああ。我が国の領土を侵したことについては、皇帝に一言申し上げなければならないからな。無論、平和的な解決策があるのが一番だが……それが不可能なら、武力をもって報復するつもりだ。女王陛下も、そのおつもりでいらっしゃる」
「……」
「ミランダ、約束は約束だ。この城は既に、我が軍の所有地。帝国におもねろうとするならば相応の罰を与えることになる……が、君たちが僕たちに協力するならば、僕の庇護下に置く。それでいいな?」
「はい、もちろんでございます」
もう、ミランダにはシリルに逆らう必要もない。
この城は、帝国に見捨てられた。王国軍と相打ちになって滅ぶことを命じられた城と人々が、生き延びることができる。それだけで、ミランダは十分だった。
「ここはとても雰囲気がよくて、居心地のいい城だ。しばらくここで兵を休めて王国からの支援物資も届き次第、帝都に向かって進軍する。……そのとき、魔道学院の生徒を数名借りたい」
「……戦力としてですか」
思わずミランダが声を震わせると、シリルは「いや」と首を横に振った。
「それは、僕のほうが君との約束を破ることになる。生徒にはいくらか帝都についての質問をしたり道案内を頼んだりするほか、進軍の際のサポートをしてもらう。我が軍には、魔術師がいない。魔術師は炎や水を生じさせられるだろうから、それで後方支援を頼みたい。帝国軍と学生が交戦することなどは、絶対にさせないと誓う」
「……そういうことなら」
ミランダはほっとしてうなずいた。
魔術は戦闘だけでなく、生活でも非常に助けられる。
王国には魔術師が生まれにくいから、生活に必要な水を出したり炎で暖を取ったりできれば、平和的な形で王国軍に協力できる。
「ありがとう。魔道学院の生徒については、男子生徒を中心に選ぼうと思っている。そのときには君にも、意見を聞きたい」
「もちろんでございます。……あの、私が行くことは――」
「だめだ。……君はお腹の子のためにも、この城に残るんだ」
念のために尋ねると、シリルは険しい表情で言った。
「三ヶ月ほど前に妊娠したということだから……生まれるのは、来年の春の終わり頃だろうか。君は出産に備えて、ゆっくり過ごすんだ。赤ん坊が生まれる頃には、僕もよい報告を手にここに帰ってこられるようにする」
そう言ってシリルが微笑むので――不覚にも、ミランダの胸がきゅんと高鳴った。
言えない、言えるはずがない。
この子は、あなたの子なのです。三ヶ月前に自分たちは密かに会っていて、そのときにできた子なのです――なんてことは。
シリルには、三ヶ月前に会った記憶がない。さらに彼は、ミランダが嘘設定としてレベッカに言ったとおりのシナリオを信じているのだから。
彼の気遣いと優しさは嬉しいのだが――
「……どうしてここまで、優しくしてくださるのですか?」
ミランダが小声で問うと、シリルは少し目を見開き……そして、どこか寂しげに笑った。
「……昔、僕は君の世話になった。そんな君には幸せになってもらいたい。君の子を祝福したいと思っているからだ」
「殿下……」
「懐妊おめでとう、ミランダ。……ゆっくり休んで、元気な子を産むんだよ」
そう言うシリルの笑顔はまぶしいが、同時に少しだけ陰があるようにも思われたのだった。
「で、ですが、そうでもしないと城の皆が犠牲になると思って……」
「……確かにあのときの王国軍は、殺気立っていた。でも、他にも打開策はあっただろう?」
「……。……妊娠がわかったのが、当日の朝だったので」
「……そうか。……すまない」
シリルはそこではっとした様子で、謝罪した。
「僕は、女性の体のことなんてなにもわからないのに、偉そうなことを言ってしまった。失言を許してほしい、ミランダ」
「いいえ、お気になさらず。……それで、殿下。殿下方はこのまま、帝都に進軍されるのですか?」
もうこの話はおしまいにしてもらおうと思ってミランダが切り出すと、シリルはうなずいた。
「ああ。我が国の領土を侵したことについては、皇帝に一言申し上げなければならないからな。無論、平和的な解決策があるのが一番だが……それが不可能なら、武力をもって報復するつもりだ。女王陛下も、そのおつもりでいらっしゃる」
「……」
「ミランダ、約束は約束だ。この城は既に、我が軍の所有地。帝国におもねろうとするならば相応の罰を与えることになる……が、君たちが僕たちに協力するならば、僕の庇護下に置く。それでいいな?」
「はい、もちろんでございます」
もう、ミランダにはシリルに逆らう必要もない。
この城は、帝国に見捨てられた。王国軍と相打ちになって滅ぶことを命じられた城と人々が、生き延びることができる。それだけで、ミランダは十分だった。
「ここはとても雰囲気がよくて、居心地のいい城だ。しばらくここで兵を休めて王国からの支援物資も届き次第、帝都に向かって進軍する。……そのとき、魔道学院の生徒を数名借りたい」
「……戦力としてですか」
思わずミランダが声を震わせると、シリルは「いや」と首を横に振った。
「それは、僕のほうが君との約束を破ることになる。生徒にはいくらか帝都についての質問をしたり道案内を頼んだりするほか、進軍の際のサポートをしてもらう。我が軍には、魔術師がいない。魔術師は炎や水を生じさせられるだろうから、それで後方支援を頼みたい。帝国軍と学生が交戦することなどは、絶対にさせないと誓う」
「……そういうことなら」
ミランダはほっとしてうなずいた。
魔術は戦闘だけでなく、生活でも非常に助けられる。
王国には魔術師が生まれにくいから、生活に必要な水を出したり炎で暖を取ったりできれば、平和的な形で王国軍に協力できる。
「ありがとう。魔道学院の生徒については、男子生徒を中心に選ぼうと思っている。そのときには君にも、意見を聞きたい」
「もちろんでございます。……あの、私が行くことは――」
「だめだ。……君はお腹の子のためにも、この城に残るんだ」
念のために尋ねると、シリルは険しい表情で言った。
「三ヶ月ほど前に妊娠したということだから……生まれるのは、来年の春の終わり頃だろうか。君は出産に備えて、ゆっくり過ごすんだ。赤ん坊が生まれる頃には、僕もよい報告を手にここに帰ってこられるようにする」
そう言ってシリルが微笑むので――不覚にも、ミランダの胸がきゅんと高鳴った。
言えない、言えるはずがない。
この子は、あなたの子なのです。三ヶ月前に自分たちは密かに会っていて、そのときにできた子なのです――なんてことは。
シリルには、三ヶ月前に会った記憶がない。さらに彼は、ミランダが嘘設定としてレベッカに言ったとおりのシナリオを信じているのだから。
彼の気遣いと優しさは嬉しいのだが――
「……どうしてここまで、優しくしてくださるのですか?」
ミランダが小声で問うと、シリルは少し目を見開き……そして、どこか寂しげに笑った。
「……昔、僕は君の世話になった。そんな君には幸せになってもらいたい。君の子を祝福したいと思っているからだ」
「殿下……」
「懐妊おめでとう、ミランダ。……ゆっくり休んで、元気な子を産むんだよ」
そう言うシリルの笑顔はまぶしいが、同時に少しだけ陰があるようにも思われたのだった。