崖っぷち魔術師は嘘をつく~一夜の過ちを犯した相手には、好きな人がいました~
産後間もない女性と乳児を連れているということで、一行はゆっくりゆっくり国境を越えて王国領に入り、深い森を掻き分けて進みやがて開けた大地に出た。
(ここが、リドベキア王国……)
馬車の窓を開けて夏の風をいっぱいに車内に取り入れながら、ミランダはリドベキア王国の大地に見入っていた。
リドベキア王国はメルデ帝国よりも一年間の気候の変化が緩やかで、なだらかな草原地帯や小動物たちが棲む森などが多い。
国民の気質も穏やかで、騎士団の精強さは大陸一と言われているが元々は争いを嫌い、美しい花を愛でて過ごすことを好む人が多いという。
だからか、リドベキア王国は自然豊かで芸術全般が栄えている。魔術でたいていのことができるメルデ帝国と違ってやや昔ながらの生活を送っているが、そんな牧歌的な雰囲気がまた魅力なのだという。
「……やっと、君をリドベキアに連れてこられた」
窓の外の光景に魅了されるミランダに、シリルの笑い声が届いた。
「覚えている? ずっと前、いつか君をリドベキアに連れて行くと約束しただろう?」
「……ええ、もちろんです」
振り返ったミランダはシリルを見て、小さく笑った。
『いつかうちに招待するよ。僕の生まれ故郷を、ミランダに見せたい』
そう言ったときのシリルは十八歳かそこらで、すっかり大人の男性になったものの赤く染めた頬がどこかかわいらしかったものだ。
「あのときの殿下は、それはそれはおかわいらしくて……」
「おい、待て。少なくともそのときの僕は既に、成人を迎えていたはずだろう」
シリルはむっとしたように指摘してきた。
「そういえば君はいつも、僕のことをかわいいぼっちゃん扱いしていたな。あれ、恥ずかしかったんだ」
「まあ、そうだったのですか? 私にとってはかわいい弟のような存在だったので、つい」
ミランダが含み笑いで言うと、シリルは拗ねたように唇を尖らせた。
「かわいいって……それは君のほうだろう」
「えっ」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
だがシリルのほうも自分の発言に驚いているようで、きょとんとしたのちに「あ、いや!」と慌てて手を左右に振る。
「いや、その……ほら、女性は皆かわいいだろう? かわいい担当は女性なんだから、僕にかわいいなんて言うんじゃない」
「はあ……まあ、そうですが。でもセドリックはかわいいですよね?」
「うん、すごくかわいい」
「ふふ、矛盾している」
「いいんだ。セドリックは特別なんだ」
なー? と、シリルはベビーベッドに寝かされたセドリックに呼びかける。
父親に呼ばれたセドリックは不思議そうな顔で指をくわていえたが、何を思ったのか「ぶゃ!」と嬉しそうに叫んで、よだれまみれの親指をシリルに差し出した
「おっと、さすがにこれは受け取れないなぁ」
「セドリックもいつか、お父様にプレゼントするときがくるのかしらね」
「……。……ふふ、そうだな。なにをくれるんだろうか?」
「きれいな石とか、葉っぱとか?」
「いいね。そのときは喜んで頂戴して、全部僕の宝物にするよ」
シリルは微笑んで、セドリックのぷにぷにのほっぺをつついていた。
(ここが、リドベキア王国……)
馬車の窓を開けて夏の風をいっぱいに車内に取り入れながら、ミランダはリドベキア王国の大地に見入っていた。
リドベキア王国はメルデ帝国よりも一年間の気候の変化が緩やかで、なだらかな草原地帯や小動物たちが棲む森などが多い。
国民の気質も穏やかで、騎士団の精強さは大陸一と言われているが元々は争いを嫌い、美しい花を愛でて過ごすことを好む人が多いという。
だからか、リドベキア王国は自然豊かで芸術全般が栄えている。魔術でたいていのことができるメルデ帝国と違ってやや昔ながらの生活を送っているが、そんな牧歌的な雰囲気がまた魅力なのだという。
「……やっと、君をリドベキアに連れてこられた」
窓の外の光景に魅了されるミランダに、シリルの笑い声が届いた。
「覚えている? ずっと前、いつか君をリドベキアに連れて行くと約束しただろう?」
「……ええ、もちろんです」
振り返ったミランダはシリルを見て、小さく笑った。
『いつかうちに招待するよ。僕の生まれ故郷を、ミランダに見せたい』
そう言ったときのシリルは十八歳かそこらで、すっかり大人の男性になったものの赤く染めた頬がどこかかわいらしかったものだ。
「あのときの殿下は、それはそれはおかわいらしくて……」
「おい、待て。少なくともそのときの僕は既に、成人を迎えていたはずだろう」
シリルはむっとしたように指摘してきた。
「そういえば君はいつも、僕のことをかわいいぼっちゃん扱いしていたな。あれ、恥ずかしかったんだ」
「まあ、そうだったのですか? 私にとってはかわいい弟のような存在だったので、つい」
ミランダが含み笑いで言うと、シリルは拗ねたように唇を尖らせた。
「かわいいって……それは君のほうだろう」
「えっ」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
だがシリルのほうも自分の発言に驚いているようで、きょとんとしたのちに「あ、いや!」と慌てて手を左右に振る。
「いや、その……ほら、女性は皆かわいいだろう? かわいい担当は女性なんだから、僕にかわいいなんて言うんじゃない」
「はあ……まあ、そうですが。でもセドリックはかわいいですよね?」
「うん、すごくかわいい」
「ふふ、矛盾している」
「いいんだ。セドリックは特別なんだ」
なー? と、シリルはベビーベッドに寝かされたセドリックに呼びかける。
父親に呼ばれたセドリックは不思議そうな顔で指をくわていえたが、何を思ったのか「ぶゃ!」と嬉しそうに叫んで、よだれまみれの親指をシリルに差し出した
「おっと、さすがにこれは受け取れないなぁ」
「セドリックもいつか、お父様にプレゼントするときがくるのかしらね」
「……。……ふふ、そうだな。なにをくれるんだろうか?」
「きれいな石とか、葉っぱとか?」
「いいね。そのときは喜んで頂戴して、全部僕の宝物にするよ」
シリルは微笑んで、セドリックのぷにぷにのほっぺをつついていた。